2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年2月16日

 伝統的に、米国と欧州の経済には国際的な動向は限られた影響しか持たなかった。金融政策によってその影響を相殺出来たからである。FRBが金利を下げることで、アジアの金融危機を通じて米国は力強く成長した。しかし、先進国では金利は基本的にゼロという状況にあって、このオプションは最早手元になく、海外の経済問題は米国経済に遥かに大きな直接的影響を及ぼすであろう。

 中国の大きさ、その潜在的な動揺の可能性、そして金融政策によるマヌーバの余地が限られていることのために、米国、欧州、新興国の経済に対する世界的なリスクは記憶にある如何なる時とも同様に大きい。政策担当者は最善を望むとともに最悪に備えるべきである。

出典:Lawrence Summers,‘Heed the fears of the financial markets’(Financial Times, January 10, 2016)
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/c860bdde-b606-11e5-8358-9a82b43f6b2f.html#axzz3xH5bhysq

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世界市場の反応は一時的なものではない

 有益な一文だと思います。年初来の中国の状況は市場心理とか政策当局のドタバタした対応だけで説明出来るものでないことは筆者が具体的に指摘しています。市場がこれだけ大きく動揺しているのですから、市場はもっと深刻なシグナルを発しているのだという観察はその通りでしょう。

 ただ、どういう種類のシグナルを発しているのか細かいことは書いていません。金融政策のオプションは最早手元にない、と言いつつ、どう対応すべきかについても書いていません。2008年の危機は中国の財政出動によって救われたようだが、その後遺症も現在の問題の一つと指摘されています。

 株式市場は何かを警告しているのではないか? 不況の到来を予測しているのか? という問題については、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、ロバート・サミュエルソンも1月10日付同紙で提起しています。彼は、世界のGDPの56%を占める途上国の成長の鈍化(インドは除く)、新興国における企業の負債の爆発的増加(中国がその最たるもの)、中国のバブルがはじけたことによる石油、穀物、金属などコモディティー価格の暴落といった問題が将来の見通しを暗くしており、先進国経済の成長は1ないし2%に張り付いたままで、世界経済は北朝鮮の核実験などコンフィデンスを害する色々な出来事に脆弱になっている結果、ビジネスや消費者の支出減退を招けば不況に転落する、と述べています。そして、株式市場は恐らくそう言っているのではないか、と書いています。何もかも問題だと言っているに過ぎないようにも聞こえますが、世界市場の反応は一時的な伝染だけで説明出来るものでないことは、これらの諸々の問題から知ることが出来ます。

  
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