クリントン候補の性格
本命とされたクリントン候補が、サンダース上院議員に対して苦戦を強いられ横綱相撲がとれない要因には、上で述べた若者の不足に加えて、同候補の性格とメッセージの問題があります。まず、性格に関する例を挙げてみましょう。
クリントン陣営が標的としているアイオワ州デモイン在住のデボラ・ソーダ(59)さんの家を訪問したのですが不在でした。ところが、タイミングよく夫とみられる白人男性が車に乗って戻ってきたのです。そこで、「デボラさんはいらっしゃいますか」と尋ねると、この男性は高圧的な態度でこう返事をしたのです。
「何の用だ」
「モトオ・ウンノと申します。クリントン陣営でボランティアをしています」
そう言って、党員集会参加を促すパンフレットを渡すと、突然敵意に満ちた表情をして怒鳴りつけてきたのです。
「ヒラリーは嘘つきだ! おまえは嘘つきの応援をしているのか!」
ちなみに、この有権者はトランプ支持者でした。
米ギャラップ社が実施した民主党候補のイメージに関する世論調査(16年2月13日-同月14日実施)によれば、クリントン候補に関して「不正直・嘘つき・信頼できない」が1位です。15年8月に行った同社の世論調査では、有権者はクリントン候補と、私的なアカウントで公務を行っていたメール問題を、即座に結びつけるという結果が出ています。
戸別訪問の際、クリントン陣営が標的としていたパトリック・トロッターさん(54)は、「党員集会に行って、バーニー(サンダース上院議員)を支持します。彼はヒラリーよりも信頼できるからです」と語っていました。「ヒラリーの人生はスキャンダルだらけだ」と非難する有権者もいました。有権者はクリントン候補に対して、「信頼できない」「何かを隠している」という印象を強く抱いているのです。
クイニピアック大学(東部コネチカット州)が実施した世論調査(15年7月8日-8月23日)の結果もみてみましょう。同調査では、クリントン候補に対する信頼度は、アフリカ系が83%、ヒスパニック系が58%で共に高いです。ところが、白人男性になると66%が同候補に対して不信感を持っています。クリントン候補が、サウスカロライナ州民主党予備選挙でみせたように、異文化連合軍の中でも、ことにアフリカ系に依存した選挙戦略をとる理由は、同系の同候補に対する信頼度と関係があるのです。
今回の大統領選挙で突然有権者が、クリントン候補に対して不信感を抱いたわけではりません。実は、バラク・オバマ候補(当時)と激しく戦った08年民主党候補指名争いにおいて、有権者はすでにクリントン候補を疑いの目で見ていたのです。米ギャラップ社が実施した世論調査(08年8月25日-同月27日)においても、クリントン候補に対して「不正直・信頼できない」というイメージが1位になっています。つまり、08年米大統領選挙から今日に至るまでクリントン候補に付きまとうイメージは改善されておらず、仮に指名獲得をしたとしても、本選で同候補に対する不信は容易にはほどけないでしょう。