1549年にザビエルが鹿児島に到着してから1644年に最後の神父が殉教するまで、日本のキリシタン史は約100年とされる。
このうち、天正遣欧使節がローマ教皇に謁見しキリシタン大名らが南蛮貿易を展開した前半期はよく知られているが、1613年の禁教令以降の迫害時代を知る人は少ない。
1966年東京都生まれ。作家、写真家。『転がる香港に苔は生えない』で大宅壮一ノンフィクション賞、『コンニャク屋漂流記』で読売文学賞「随筆・紀行賞」受賞。
星野さんは世界遺産登録を目指す長崎県のキリスト教関連遺産の現状に「虚しさ」を感じた。キリシタン大名有馬晴信の日野江城は遺産の一部だが、看板もない森にすぎず、島原の乱(1637年)で3万7000もの民が殺された原城跡は、案内板こそあるもののただの原っぱ、「彼らの魂が宙に漂っているような気がした」のだ。
「異国情緒豊かな長崎、と言われますが実はキリシタンを一番厳しく弾圧したのが長崎です。加害者の歴史があるんです」
本書によれば、市内のサント・ドミンゴ教会跡(破壊された地下遺構)は往時をしのばせる唯一の遺構にもかかわらず、今回の世界遺産登録の候補施設には入っていない。
「長崎の隠れキリシタンは取材しましたか?」
「はい。でも私とは波長が合わなかったので、本には書きませんでした」
このあたりの思い切りと柔軟性が、私的キリシタン探訪記の「私的」なのかもしれない。
終盤に至って、星野さんは処刑された聖職者たちの故郷スペインを訪れる。そこで人間味溢れるアフリカ系神父に出会い、400年前に命を賭して布教した「パードレ」と、その思いに全身全霊で応えた日本人信徒との「幸福な瞬間」に気づくのだが、この場面は何度読んでも胸が熱くなる。
題名の「彗星」とは、美しくも不吉だった当時のキリスト教(とその文化)を指すらしい。
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