2024年11月5日(火)

この熱き人々

2016年1月20日

15歳でデビューして二十年余り。際立つ演奏テクニックと豊かな音楽性が国内外で高い人気と注目を集めてきた。病による長期休養を経て復帰したいま、新たな境地でギターと向き合う。

 2015年9月29日、長野県松本市のまつもと市民芸術館で開かれた、女優・吉永小百合の朗読会。ときに消え入るような、ときに激しく訴えるようなギターの伴奏が、吉永の朗読に寄り添っていた。演奏は、村治佳織である。

 村治は、中学生時代にギタリストとしての頭角を現し、03年、25歳の時に英国の名門クラシックレーベル「デッカ」と日本人初のインターナショナル長期専属契約を結ぶなど、日本国内にとどまらず海外にもその活躍の場を広げてきた、クラシックギター界に咲いた大輪の花。病気療養のためにファンの前から姿を消していた村治の久々の生演奏と、吉永の思いが見事に絡み合って、館内を埋めた約1500人の心に染み込んでいくようなひとときだった。

 松本で村治のギター演奏に再会してから10日後。都内の約束の場所に、村治はギターを携えずに軽やかに現われた。

 「昔は、どこに行くにもギターを持って行くという生活でしたけれど、いまでは3、4日ギターを弾かない日もあるんですよ。ギターは大きな楽器ですから、名刺見せながら街を歩いているみたいじゃないですか」

 ギターとセットで自分を捉えようとする思い込みを、村治は笑いながらいなした。表情も豊かで、内から静かにパワーがにじみ出ているのが感じられ、復帰という言葉が確かなものとして伝わってくる。

新たな地平をめざす

 村治が舌腫瘍の治療のために、公演予定をすべて白紙に戻して療養生活に入ったのは13年7月。無期限の休養は、ファンに衝撃を与えたものだった。

 「休養の後、最初の仕事は、14年の11月に公開された『ふしぎな岬の物語』という映画のメインテーマの演奏だったんです」

 この映画のプロデューサーでもあった吉永小百合から依頼があったのは、おそらくまだ療養中のころ。吉永と村治は、村治が高校生だった頃、吉永が自らの原爆詩の朗読CDのBGMに村治の演奏を強く求めたことで縁が生まれ、姉妹のように親交を深めてきた仲だという。映画のエンディングをギター演奏でという吉永の願いに村治が応えた形だが、それを支え実現させたのはふたりの間に培われてきた深い信頼関係だったのだろう。松本での息の合った見事な2人3脚ぶりが深く納得できた。


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