ロックプロデューサーから30年の時を経て絵の世界へ回帰。
鮮やかなアクリル絵の具で描くロック魂ほとばしる壁画は、京の街中で人々の目を釘づけにする。
1100年の歴史をもつ天台宗の寺院、青蓮院門跡(しょうれんいんもんぜき)。その白書院、華頂殿(かちょうでん)60面の襖に描かれた蓮の花。京都市動物園の類人猿舎の壁には天井にまではみ出るウルトラマリンのゴリラ達。地下鉄京都市役所前駅に通じる地下街、ゼスト御池(おいけ)の広場の壁には百八匹の鯉が重なり合うように上昇し、市民の台所のカジュアルな老舗中華料理店の天井には大きな海老。京都には、キーヤンこと木村英輝が描いた壁画が五十カ所もあるという。ダイナミックに金色で縁取られた花も動物も魚も、まるで飛んだり、笑ったり、踊ったり、歌ったりしているかのように見える。エネルギッシュで躍動感にあふれた絵を目にすると、何か気持ちが勝手に弾み始める。
軽やかな気分で京都市役所からほど近い三階建ての倉庫だった古い建物の階段を上っていくと、一澤信三郎帆布の白い大きな布が広い床一面に広がり、木村英輝がミュージカルの舞台で使う絵を描いていた。黄色いつなぎを着て、先を割ってチョークをゴムでくくりつけた竹の棒を躊躇なく動かすと、その後に花や人や動物が浮かび上がってくる。速くて迷いがない。
「下絵は一応あるんやけど、カンでやってるんや。勢いとリズムや。絵が描けたら、チーム・キーヤンのみんなで塗るんや。線をきれいに塗らんでもいい。はみ出してもいいから、それぞれが思いをぶつけたほうが面白いもんになる」
昔、子どもが道路上にロウセキで無心に落書きをしていた姿を彷彿とさせる。1942年生まれ、今年73歳になるはずだが、その後ろ姿はまるで面白いことに没頭している子どもそのものに見える。
「ホンマに子どもの頃、地べたに絵を描いていたんや。4、5歳の小さな子が自分よりずっと大きな絵を描くと、みんな面白がってね。近所の人が集まってきて、うわ、天才やなとかおだててくれるねん。自分でも上手なんや思って、あれ描いてこれ描いて言われると頑張ってしまうんや」