2024年12月7日(土)

イノベーションの風を読む

2015年6月23日

 故スティーブ・ジョブズの言葉は数多く紹介されているが、2001年にiPodを発表した時にジョブズが言った次のフレーズが特に印象的だった。

 "a part of everyone's life"

 AppleがなぜiPodで音楽の市場に挑戦するのか、それは音楽が「人々の人生の一部だから」だという文脈だった。人々は皆(ジョブズも)、音楽が大好きだという意味もあるが、それ以上にAppleという企業が挑戦する価値があるほど「大きな市場」だということだ。 iPodは音楽を楽しむという人々の基本的なニーズに着目し、それまでになかった新しい体験を提供した。

ipodのプレゼンをするSteve Jobs(Getty Images)

 次に、ジョブズは「電話機を再発明する」と言ってiPhoneを発表した。人々はいままで持っていた携帯電話を捨てて、代わりにiPhoneを購入した。しかし人々は電話機としての価値ではなく、ジョブズの本当の狙いであった「インターネットに繋がったコンピューターを持ち歩くことによって得られる体験」の価値に気づき、それは人々の生活になくてはならないものになった。そして、それはiPhoneにアプリやサービスを提供する企業にとっても大きな魅力となり、それらの企業がさらにiPhoneの価値を向上させるという奇跡ともいえる循環を生んだ。

 Apple Watchは人々の生活を変える?

 時は流れて、Appleは時計を発売した。これはすでにジョブズの残した仕業ではないだろう。今年の2/10に米国で開催されたTechnology and Internet Conferenceでティム・クックは次のように言った(Mac Rumorsの英文を著者が翻訳)。

 "We want to change the way you live your life."

 (Appleは人々の生活を変えたいのだ。)

 He also pointed out the feature that pings people when they've been sitting for too long, which he sees in use on a daily basis at Apple. During meetings, he says, towards the end of the hour, people will begin standing up as their Apple Watch alerts them to do so. "A lot of doctors believe sitting is the new cancer," he said. "Arguably, activity is good for all of us." Cook says that he is "super excited" about third-party apps that are being developed for the Apple Watch. 

 (長時間座り続けていると、それを知らせてくれる機能がある。それは、Appleの社内で日常的にみられる光景だ。会議で終わりの時間が近づくと、みなApple Watchのアラームに促されて立ち上がる。多くの医者が座っていることは癌の原因になると信じている。動くことは間違いなく、誰にとっても良いことだ。そして、Apple Watchのためにサードパーティが開発しているアプリに「非常に興奮している」と続けた。)

 "sitting is the new canser(座っていることは新しい癌だ)”というフレーズは英語圏でも話題になったが、この意訳でいいようだ。 いかにもクックらしい論理的な考え方だが、(私は)事例に説得力を感じることができず、興奮することはなかった。


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