機械の魅力と人間らしさをあわせ持つ独創的な二足歩行ロボットの開発・製作にたったひとりで挑み続けてきた。人の生活に寄り添い人の感情をも動かすロボットとの共生は、もう手が届く未来だ。
東京大学駒場キャンパスと駒場公園を挟んで隣り合う東京大学先端科学技術研究センターは、閑静な住宅地の一角にあった。目指す三号館は、コンクリート打ちっ放しの斬新な印象。入口はセキュリティロックされ、いかにも科学技術の先端という雰囲気を漂わせている。
科学技術だけでも無縁なのに、先端がつくとほとんど無知の領域ゆえに、おそるおそる外から中を覗き見していると、背後に人の気配。振り返るとそこに高橋智隆がいた。妙な出会い方だなあと思う間もなく、素早い動作でセキュリティを解除。第一印象は、やっぱりカッコいい。カジュアルでさりげないけれど、こだわりの感じられるファッション。スニーカーにまで神経が行き届いている。が、そんなことを頭で転がしているヒマはない。さっさと先に行ってしまう。あわてて一緒に中に飛び込む。
広々とした研究室の入口に、すっきり片付いた接客スペース。つい奥を覗くと「あ、そっちは散らかってますから」とやんわりNGサイン。どうやら奥は高橋がロボットを作っている研究スペースになっているらしい。名刺には「ロボットクリエーター」。そして、株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長、東大先端研・特任准教授とある。
室内には複数の人が日常的に作業したり出入りしている気配がない。京都大学に入学した時からずっとひとりでロボットを作ってきたという流儀は、東京に根拠地を移してからも変わっていないようだ。
「研究室には助手も研究生もいない。会社にも社員はいませんのでひとりです」
しかし、京大生だった頃と違って、メディアに登場することも多い今では、それに伴うスケジュール管理や雑務なども大変なのではないだろうか。
「多少雑用が発生しても、それでもひとりのほうが楽です。僕はある意味、完璧主義なので、人に任せて思い通りにいかないとイライラする。人は絶対自分の期待どおりに完璧には動いてくれませんから。手取り足取り教えるのは効率悪いし、スティーブ・ジョブズのように部下を罵倒して首を切りまくるほど攻撃的な性格ではないと思っている。そして何より、人と相談しながら民主的に研究開発していては、無難で平凡なものしか出来上がらない」