高橋の目論見どおり、今、人々は小さなロボットに興味津々。テーブルの上には体長34センチのロボットがチョコンと置かれている。名前はロビ。毎月の付録パーツを少しずつ組み立てることでロボットが出来上がるという雑誌は、累計20万部も売れているという。ロビは人の動きのようになめらかに歩行し、人感センサーで人の方に顔を向け、テレビのリモコンを操作したり、歌やダンスもできて、音声認識機能で会話もできる。
高橋の描くロボットの設計図は、ファッションデザイナーのデザイン画のようでもあり、アニメの原画のようでもある。ISSでの会話実験でキロボが世界中から注目された時、アメリカの技術情報サイトでは日本のロボットアニメの伝統と科学者、技術者との相互関係を指摘していたが、高橋がロボットに最初に興味を持ったのも手塚治虫の「鉄腕アトム」だった。彼はガンダム世代だが、両親が持っていたアトムの漫画を見てロボットを作りたいと思ったのが、ロボットクリエーターの原点だという。
「アトムに出会った子どものころって、科学に対するあこがれが無邪気に存在した時代でした。アトムはスーパーヒーロー。優秀だけど融通がきかなくて、優等生的、コンピューター的なロボット。ドラえもんはカジュアルで、いい加減でぐうたらで、人間らしさを持っている。ロボットとしては実はより高度なんですよね。この感覚が、僕が目指しているところにいちばん近くて、本当は難しいところでもあるんです」
ドラえもんだったのか。だれでもみんな、のび太がうらやましくて、自分もドラえもんがほしいと思った経験がある。高橋の目指すロボットと人間が暮らす未来が、やっと掴めたような気がした。
(写真:岡本隆史)
高橋智隆(たかはし・ともたか)
1975年生まれ。2003年、京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業。ひとりで技術開発、設計、デザイン、製作をこなし、人に近い自然な二足歩行を実現する独自の機構を考案。これまでにない斬新なデザインのロボットは国内外で高く評価されている。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。