そういう煩わしさを抱えるくらいなら、ひとりのほうが自由に思いどおりのことができる。わかる気もする。とはいえ、人嫌いというわけではない。学術研究としてのロボットをただ黙々と作っているわけではなく、掲げる目標は「ロボットと暮らす未来」。生活の中で人とともに生きるロボットということになる。それには、さまざまな分野の人たちとの連携が欠かせない。
「大企業から海外のベンチャー企業、大学の研究者からアーティストまで、多くの人とかかわりながら仕事をしています。ただ、雇ったり雇われたりというべったりした関係にならず、よい距離感と緊張感を保つ。そして自分が専門とする部分については、ひとりでとことん作り込みたい」
高橋にとってロボットを生み出す過程は、自由に静かに守りたい聖域なのかもしれない。
ロボットの新時代が来た
ロボットクリエーター・高橋智隆が世に送り出したロボットはすでに30体以上。ロボットに疎い人でも、エボルタ君とキロボ君は知っている。
乾電池の長持ち性能をアピールするテレビコマーシャルで、体長わずか17センチの人型ロボットが、背中に乾電池を背負ってグランドキャニオンの断崖絶壁に張ったロープを手と足でしっかり掴んでひたすら登っていくシーンは記憶にあるはず。思わず「エボルタ君、ガンバレ」とロボットに声援を送りたくなるほど小さなその姿は、かわいくてケナゲだった。
体長34センチ、体重1キロのキロボは、種子島宇宙センターから打ち上げられ、ISS(国際宇宙ステーション)で合流した若田光一宇宙飛行士と無重力空間でフワフワ浮かびながら会話実験に臨んだ。その様子が中継で伝えられて大反響を起こしたのは、2013年12月。
「いろいろな実験を見守ってくれてありがとう」という若田飛行士に、キロボは「友達だから当然だよ」と答え、「一緒に地球に帰れなくてごめんね」という言葉に「気にしないで。ボクが乗ると定員オーバーだし」と返す。その会話を聞いて「キロボかわいすぎ」「号泣しました」という書き込みがネット上にあふれ、キロボはロボットを超えて、まるで人間のように人々の心にその存在を深く印象づけた。
「人工知能の研究は進んでいます。ある部分では圧倒的に人工知能のほうが人よりすぐれている。でも、チェスや将棋で人間に勝ったりしている一方で、すごく単純な問題がわからなかったりもするわけです。人工知能は人間の脳とは仕組みが違うので、得手不得手が違う。大量の情報を処理して、ベストな選択肢をチョイスする。これまでは、ある判断に伴うメリットデメリットの大小は人間が与えていたけれど、今ではコンピューター自身がその影響を算出して、これまで人が経験や勘で導き出した結論とは違う新しい将棋の指し手を発見したりするわけです」