6月にWWDC(World Wide Developer Conference)という、Appleの開発者向けのイベントが開催された。例年は冒頭で、事業や前年に発売された新製品の好調さをアピールすることが多いので、今年はApple Watchの販売の状況が発表されるのではないかと思っていたが、噂されていた新しい音楽ストリーミング配信サービスの発表の前に「順調だ」と一言触れただけだった。あまり売れていないのかと勘ぐりたくなるが、どうやらそれは違うようだ。アナリストによるApple Watchの販売予測はまちまちだが、発売から2ヶ月で279万本だったというロイターの報道からすると、今年は1,000万台は越えることになるだろう。
(下の)グラフは、Appleの製品の最近の四半期ごとの販売台数の推移を表したものだ。Appleは10月から12月までを第1四半期としており、その時期のクリスマス商戦に合わせて新製品の投入をするために、他の四半期に比べて売り上げが突出する傾向がある。
Appleの驚異的な成長のきっかけとなり、その一時代を築いたiPodは、「音楽」というソフトウェアとしてその機能をiPhoneに吸収されてしまった。iPodという製品は、今年からApple TVなどと共に「その他」に分類されるようになり、単独での数量の発表はされなくなった。
どうやらAppleでは、年間1,000万台程度の販売がない製品は事業として認められていないようだ。そうであるならば、初年度から1,000万台以上の数字が見込まれているApple Watchは、Appleにとって十分に事業としての価値があることになる。そしてその数字は、iPodやiPhoneの立ち上がりに比べると脅威的なものだ。
すべてはiPhoneのために
しかし、それは裏を返すとApple Watchが、iPodやiPhoneのような、そのときの人々の理解を超え、技術やインフラが後から追いつくというような革新的な製品でないことを示しているように思う。Appleブランドの新しい製品に、発表される前から市場の期待が盛り上がり、心待ちにしていた多くの人々が発売と同時に飛びつく。
それはiPadと同様に、これまでになかったものではなく、これまでにもあったが、誰もビジネスとして大きく成長させることができなかったものを、Appleが先進的な技術と卓越したデザイン力によって再定義したものだ。
製品の顧客価値を論じているのではなく、Appleの製品戦略が大きく変わったと感じるのだ。それは、いまやその売り上げ規模が、GoogleやAmazonやMicrosoftなどの名だたるIT企業の2倍以上となったAppleが、その地位をさらに磐石なものにしようとするしたたかな戦略だ。