「描いたのはイベントの絵コンテくらいだったかな。今振り返ってみると、世界を席巻していたポップアートにあこがれたんやけど、彼らに負けるのがイヤやったんや、きっと。絵は誰にも負けへん。負けたらカッコ悪いと思ってたから、負けてバカにされるのイヤやってん。それでモジモジしているうちにロックに夢中になったのかもわからんね」
そしてしばし考えた後、木村はこう続けた。
「絵はずっと気持ちの中にあったんや。60歳近くなって、負けるとかそんなんはつまらんことに思えてきた。自分が描けるものを描いたらええんや。そう思ったら絵描きになってたんや」
最初に絵の注文をしてくれたのは、デザイン事務所を始めるという友人。その会社の壁に木村は犀(さい)を描いた。
「自分の目で見ていないものは描けへん。犀は京都の動物園にはいないから、上野動物園に行って初めて見て、じっと眺めてスケッチしたんやけど、何やぼそーっとしているだけやったなあ。写真は平面で裏側がわからんから自分のポーズにしにくい。一度全体を見ていれば、省略することもデフォルメすることもできる。竜を描いてくれと言われても、竜は見たことないから、描けへん」
愛用しているのは、大阪の会社がドイツをまねてドイツを超えたと木村が絶賛するアクリル絵の具。青蓮院門跡の襖もアクリル絵の具で描いた。