この結果、共和党内部では一種のパニック状態が発生している。3月3日には、2012年大統領選に共和党側から出馬したミット・ロムニー氏がトランプ氏は「詐欺師」だと批判する演説を行い、08年大統領選でオバマ大統領と戦ったジョン・マケイン上院軍事委員長も、トランプ氏に批判的な声明を出した。ポール・ライアン下院議長もスーパーチューズデー当日の3月1日に記者会見を行い、その中で、「共和党は(奴隷解放を掲げた)リンカーン大統領の政党だ」「我々(共和党)はすべての人は神の下に平等に創られたと信じている。これは基本的なことで、我々の党の大統領候補になりたいと思う人間がいるならば、彼らはこの事実を理解しなければならない」と、これまでの選挙戦でイスラム教徒やヒスパニック系移民に対する敵対的なコメントを続けてきたトランプ氏を暗に非難した。
トランプ氏大統領候補選出で共和党団結不可能に
ラインス・プリーバス共和党全国委員会委員長は、共和党全国委員会は最終的に大統領候補として指名された候補を「100%支持する」と述べているが、すでに共和党の議員の中にはトランプ氏が大統領候補になった場合はトランプ氏には投票しないと明言する議員も出始めている。
特に、ロムニー氏が極めて批判的な演説を3月3日に行ったことについては「遅すぎた」という声がある一方、彼の演説は、トランプ氏に対する強い反発が共和党内の中道派・穏健派の間にあることの表れで、今の時期にあれだけ批判的な演説を彼がしたということは、夏の党大会で共和党候補を党が一丸となって支持しようという雰囲気を醸成することは、トランプ氏が候補として指名された場合ほぼ不可能になるのではないか、という見方も出てきており、その場合、トランプ氏に反発する勢力がポール・ライアン下院議長を「第3の候補」として担ぐ可能性も否定できず、ロムニー氏が自ら「第3の候補」として出馬するのではないかという憶測も流れている。共和党が内部から瓦解する結果になるのではないか、と指摘する声もあるほどだ。何しろ、まだ予備選も終わっていない時期に、ワシントン・ポスト紙のような大手の新聞が、「共和党はトランプ氏を止めなければいけない」という社説を掲載することそのものが異常事態だ。
現在のところ、共和党側の動きが突出して目立っているため、共和党側だけがいわゆる「反エスタブリッシュメント」の動きに揺り動かされているように見えるかもしれない。しかし、実際は、民主党、共和党ともに、政治の現状に不満を持つ人が一般の有権者の支持層の中に増えており、それが共和党側ではトランプ氏の快進撃という形で、民主党側では、リベラルを通り越して、時に「社会主義者」と揶揄されるサンダース上院議員の予想以上の健闘という形で表れているという見方がより現実に近いだろう。