01年にブッシュ政権が発足してから、特に9月11日の連続テロ事件以降、一般のアメリカの有権者は漠然とした不安の中で過ごしてきた。出口が見えないアフガニスタンやイラクでの戦闘に加え、08年にはリーマン・ショックがアメリカ経済を席捲した結果、国内の経済格差がこれまでにないほど広がった。さらに、選挙戦期間中は「思いやりのある保守主義」を唱えていたブッシュ政権の8年間で、議会での民主、共和両党間の対立は厳しくなる一方で、国民のために予算を成立させ、法律を通過させるという立法府としての基本的な機能を果たすことさえおぼつかなくなってきた。
この状況を打開してくれるのではないかという国民の期待を背負って「チェンジ(変革)」を合言葉に当選したオバマ大統領の8年間も、状況に大きな改善は見られていない。米国経済は回復基調に乗ったとはいえ、そのペースは遅く、一進一退を続けている。格差問題も解消には程遠く、例えば、若年層が、学生ローンを抱え、独り立ちするために必要な十分な収入が得られる仕事になかなかつけないため、大学を卒業した後、再び両親と同居するケースも増えてきている。議会での党派対立は厳しくなる一方で2013年にはとうとう、1996年以来の連邦政府閉鎖という事態にまで発展、オバマ大統領もインタビューで、任期中に後悔していることとして「党派対立が厳しい状態を改善できなかったこと」と答える状況に至った。
つまり、現在の政治状況に対して多くの有権者が抱えるフラストレーションが、現在のような状況に結び付いているといえる。
米国内の潮流が対外政策に影響及ぼす可能性も
そして、気を付けなければいけないのは、国内の状況に対して充満するこのような苛立ちは、対外政策においては、「強いアメリカ」であり続けたいという強い思いがある一方で「アメリカだけが世界の安全に対して大きな負担をしてきている」という不公平感につながりかねないということだ。
オバマ政権の8年間で、すでにヨーロッパに対してはNATOが自分たちを守るために十分な投資をしていないどころか、景気を理由に国防費を削減している、財政が厳しいのはお互いさまではないか、という批判が表面化している。アジア太平洋地域では南シナ海における中国の行動について、今でこそまだ、「アメリカは中国に断固たる決意で自らの行動がコストを伴うことをわからせなければいけない」という声が主流だが、この声と「地域の国は自分たちで自分たちを守るためにもっと努力すべきだ」という主張は常に背中合わせだ。そして、米国のこのような状況がすぐに好転する可能性が低い以上、このような苛立ちも当面の間続くと思われる。
日本は、「トランプ大統領」の危険について声高に論じるよりも、米国内のこのような潮流がこれから米国の対外政策にどのような影響を与えるかについて、より真剣に考える必要があるだろう。
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