経営者たちは支援メニューについて「研究開発は顧客のニーズがあればすぐに着手したいが、申請時期を待たなければならない」「研究開発の資金が欲しいのに、お金が出るのは開発の後」といった使い勝手の悪さを口々に指摘するが、こうした声には政策のブラッシュアップでカバーできるだろう。では「10人足らずの企業にとって、書類作成の負担を考えると申請さえできない」と諦める零細企業の社長には支援できないのだろうか。
「政策は空振りが多くても、一つでもミートするものがあればよい。むしろ、そうした政策と企業のつなぎ役が重要となってくる」(鵜飼信一・早稲田大学商学学術院教授)との指摘は、中小企業支援の問題の核心を突いている。技術力ややる気があっても従業員数の少ない企業では、膨大な申請書類を短期間で作成することができず、諦めざるを得ない企業が山ほどある。もちろん貴重な税金が投入されるため、それなりの審査は必要である。では、こうした経営者にもきめ細かくサポートする存在はいないものか。
支援現場の実態 これじゃダメだ
全国各地域には商工会議所や商工会の経営指導員がいる。しかし、「全国の商工会議所は商店街など商業中心に支援してきたため、工場集積地でも製造業を支援するノウハウもないし、人材もいない」。ある企業城下町で支援にあたる商工会議所の職員はこう漏らし、「私たちに期待されているのは記帳指導とマル経融資(※小規模事業者への無担保・無保証人・低金利の融資制度。ただし、利用するには商工会議所などによる経営指導の実績が必要)だけです…」と自らの存在意義を否定するかのような発言が飛び出してくる。
では地域金融機関はどうだろう。金融庁の顔色ばかりに気を取られ、中小企業庁が用意する支援メニューへの理解は不十分だった。実際、支援策を積極的に活用する金融機関の顔ぶれはほとんど同じである。こうした状況に、関東経済産業局では昨年から金融機関向けに政策勉強会を開始した。
それならば自治体がサポートに力を入れているのかと言うと、慶應義塾大学教授の植田浩史氏が中心となり取り纏めた、全国806の自治体へのアンケート調査(9月30日時点)からは、いまだに大企業にすがる自治体の姿が浮かび上がる。「自治体が最近5年間で重点的に実施している施策のおよそ7割が企業誘致で、地場産業支援は3割にも満たない。地元の企業をどう発掘し育成するのかという視点が乏しいのではないか」と植田氏は疑問を投げかける。「地元の中小企業を無視しているというより、企業にどのように手を差し伸べればよいのか分からない自治体が多いのだろう」とみる。
もっとも「中小企業は従来の延長線上で仕事を行う傾向が強いが、自分たちが磨いてきた技術をどう客観視し、どう活かすのかが重要。それには、中小企業の経営者のみならず、能力・意欲のある行政マンが必要だ」(植田氏)と行政への期待は大きい。
しかし、某市役所の担当者は「商工振興を5人で担当していますが、2~4年で人事ローテーションがあるので、技術的な専門性は正直ありません」と打ち明ける。地域金融に力をいれる信金・信組の職員でも一筋縄ではいかない経営支援を、行政マンに任せるのは確かに酷な話かもしれない。だからといって専門性を磨く職員を養成しようとしない行政のスタンスを、納税者でもある経営者が今後も許してくれるだろうか。