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2016年3月30日

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澤 昭裕 (さわ・あきひろ)

国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

 いくつかの会社にとっては、「原子力はせいぜい、既設発電所をギリギリまで温存して、コストを回収していくところまで。リプレース(建て替え)や新増設の投資など想像がつかない」というのが、隠れた本音なのではないか。

原子力オプションを維持すべき理由

 制度改革を進めてきたのは国だ。電力各社からすれば、「国は、新安全基準や料金審査、さらには電力システム改革まで、我々を断罪する立場でうまく立ち回った。我々の判断に全てを委ねるなら、2030年の電源構成における原子力比率達成の結果責任は負えない」と言いたくもなるだろう。

各地の現場を視察(福島第二原発サイト内視察) 提供・21世紀政策研究所

 当然、国は、この結果責任から逃げられない。自由化を進める一方で、なお原子力投資の確保が必要と考えるならば、まずは国が原発の必要性と安全確保について国民に直接説明責任を果たし、導入目標を明確化すべきだ。その上で、収益最大化や投資回収リスク最小化といった「経営の理屈」で原子力投資を正当化できるような事業環境を整備し、電力会社の意思決定を目標まで誘導する責任がある。

 筆者は、見落とされがちな福島事故で得られた教訓等も踏まえ(コラム1参照)、電力安定供給の「主軸」というよりも「他電源でトラブルが生じた際のラストリゾート、リスクバッファー」として、当面は原子力の維持が欠かせないと考えている。

【Column 1】見落とされがちな福島事故の教訓
●地理的リスクの分散失敗【東電】
柏崎刈羽原発の7基中3基が停止している状態で、福島第一、第二原発に加え、太平洋沿岸920万kWの火力(鹿島・広野・常陸那珂)が同時被災し、大規模計画停電に
●複合的災害発生リスクへの備えの不足【東電、東北電】
2011年7月の新潟福島集中豪雨によって流木がダムに流れ込み、29カ所が停止。復旧や再稼働も進まず、東北圏内では11年・12年夏の電力需給が危機的状態に
●化石燃料依存度の急上昇に伴うコスト・リスク増大【全国】
依存度6割から9割へ。燃料輸入費は3.7兆円(2010年)から7.8兆円(13年)に。電力全体のCO2排出量は3.74億トン/年(10年)から4.84億トン/年(14年)に
●賠償支払いの対応能力【東電】
事故対応等と並行して、約220万口の賠償請求に対して1万人規模の態勢を整備。累計約5兆円の支払いを完了。これは国内損保の2014年度保険金支払総額(4.6兆円)を上回る

 そして、再生可能エネルギーは、コスト面や稼働率で現実的代替案となる目途が未だ立たない。次のような点を考慮すると、中長期的にも一定比率の原子力を国として保持し続けるオプションを放棄すべきではないと考える。

(ア)リスク・ポートフォリオの拡大

 化石燃料(再エネの予備力を含む)への過度な依存の回避は、国として不可欠である。国全体の化石燃料依存度が震災前の6割から9割超に上がる中で、ホルムズ海峡閉鎖や投機的油価高騰が生じなかったのは、不幸中の幸いだった。

 実際に、原子力の保有や稼働は、電力各社のLNG(液化天然ガス)購入交渉における重要なカギとなっている。「原子力という代替オプションがなければ、足下を見られる」のだ。

 そして、地理的リスク分散における原子力の役割も重要だ。事故当時、東京電力柏崎刈羽原発は中越沖地震の影響で稼働が進んでおらず、東電の電源が「太平洋岸頼み」となってしまっていた。原子力発電所は、石炭・石油・LNGと違い、工場や港湾設備の近傍に限定されない利点があり、国全体に広汎に分散している。その分布と、出力の大きさは、広域災害に対する重要なリスクバッファーとなるだろう。

 これらの教訓を活かし、自由化下においても、日本全体で、立地地点や電源種のリスク・ポートフォリオの組成を目指すべきだ。一社の活動区域や経営判断の範疇を超えて、国などの第三者による総合調整(長期設備投資計画の評価・是正等)が必要だろう。

(イ)CO2の抑制

 15年末パリで開催されたCOP21では、気候変動問題に対する20年以降の枠組みが合意に至った。我が国がかねて主張してきた「プレッジ・アンド・レビュー方式」に基礎を置く法的拘束力ある枠組みが構築され、すべての国の参加を得たことは大きな成果だ。今後我が国は、掲げた目標の達成に向けて努力せねばならない。

 この合意を持続させる要件は、目標達成に向けた「PDCAプロセス」を公開し、透明性を確保することだ。30年目標を目指した努力内容の可視化は、京都議定書のように「結果責任」だけを問われる枠組みに比べて、極めて重要となっている。

 国民生活に過度な負担が生じないよう、必要に応じた目標の見直しが許容されているのも「プレッジ・アンド・レビュー方式」の特色だが、達成への最大限の努力と、その「見える化」は不可欠だ。さもなければ、他国、特に中国のように「大排出国ながらデータの信頼性に疑問符が付く国」に対する発言力も弱まり、競争条件は不利になるだろう。

 自由化を進める以上、課税等の手段によって、我が国として相応のCO2削減を実現していく必要がある。その際、再エネの技術的ブレイクスルーが見通せない現実を踏まえると、今後とも一定規模の原子力が必要となることは明らかだ。

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