2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年4月15日

 中国のソフトパワーの潜在的な力は巨大だが、それが国家によってつくられるものではないことに政府が気づき、市民社会の邪魔をしないようになって初めて現実のものとなろう。中国指導部は、自分たちが何を追求しようとしているのか決めなければならない。市民社会を厳しく管理したいのであれば、強いソフトパワーを作り出すことはできない。強いソフトパワーを持ちたいのであれば、市民社会に多様な意見を許容する治安の仕組みにしなければならない。

出典:Barry Buzan,‘Confusing Public Diplomacy and Soft Power’(University of Nottingham, March 10, 2016)
https://blogs.nottingham.ac.uk/chinapolicyinstitute/2016/03/10/confusing-public-diplomacy-and-soft-power/

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 この論評は、中国のソフトパワーの持つ限界と制約を的確に指摘しています。しかし、こういう現体制の持つ制約がなくなったとしても、中国が世界をリードするには中国市民社会の成熟という次の大きな課題が待っています。

プロパガンダがソフトパワーを弱める

 今年に入り習近平が自分に権力をさらに集中させ、自分の権威をさらに高めようとする動きを強めています。党をさらに厳格に管理し、世論空間を厳しく管理し、プロパガンダを通じ習近平の権威を高めることが、そのやり方です。党が自分の思うように動かないことに対する習近平の焦りでしょう。しかし、このようなやり方は党の活力をそぎ、市民社会を弱体化させることになります。つまりソフトパワーをさらに弱めるのです。世の中の流れに逆行する動きであり、同時に国際社会、とりわけ西側世界における中国のイメージをさらに悪化させる動きでもあります。

 この習近平の動きに対し、さまざまな反作用が出始めています。王岐山が主管する中央規律検査委員会のホームページに「千人之諾諾、不如一士之諤諤(大勢のものがどんなにへつらいを言っても、一人の人が直言するに及ばない)」(史記商君伝)という言葉を習近平が使ったことを紹介し、党内の自由な発言と直言の必要性を強調したのも、その一つです。

 来年の党大会に向けて、習近平が自分だけで多数派を形成できるのか、それともどこかと組む必要があるのか、習近平自身の党内掌握力の帰趨を含め、中国政治が“要経過観察”に突入したことだけは間違いありません。

  
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