2024年4月27日(土)

足立倫行のプレミアムエッセイ

2016年5月3日

 もう一つは、小型の船にとっての航海の難しさ。I氏の船はむろんレーダーを備え、パソコンに取り入れた海図や航跡図とGPSの位置とを確認しながら航行する。しかし小さな船に変わりはなく、千変万化する海上では風にも波にも霧にも岩礁(浅瀬)にも弱い。

 レスボス島脇を通過中も急に霧が発生し、私とI氏夫人はアッパーデッキで周囲を監視した。大型船と衝突すれば即沈没だが、小漁船やボートもレーダーには映らない。

船の上を横切った野生のフラミンゴ

 私は薄い島影を横目で眺めて、レスボス島生まれの古代ギリシャの女流詩人サッフォー(若い娘を集め詩や音楽を教えたことから同性愛者〈レズビアン〉と呼ばれたが、根拠はない)の容貌をほんのちょっと想像しただけだった。

 霧を抜けて見上げると、ピンク色の大きな鳥が十数羽、私たちの船の上を横切って飛んで行った。野生のフラミンゴだった……。

 もっとも、キャビン付きのレジャーボートによる旅と船外機付きゴムボートによる満員の密航では、同じ海域の渡航といっても比較にならない、という意見もあるかもしれない。

 しかし、先のリポートで春香さんは、レスボス島で出会った「難民」は決して貧しい服装ではなかった、と書いている。トルコ・ギリシャ間の密航料は1人平均1500ドル。「貧しい人はそもそも海を越えることもできず」自国を出国できない、というのだ。

 そしてバルカンルートに同行する春香さんはどこでも笑顔で声をかけられ、一緒の写真をせがまれ、各地で靴や毛布やコートを支給され、「西へと進むごとに難民収容施設の手厚さが向上していくように感じました」と。


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