日本初の〈春画展〉が昨年12月23日まで(9月19日より)開いていることを知り、妻が「行こう!」と言うので、師走の日程を調整し還暦をとうにすぎた2人で東京に行った。
老カップルも目立つ会場
会場はホテル椿山荘の近くの永青文庫。ここは今回英断を下した永青文庫理事長・細川護熙氏ゆかりの細川家のお屋敷跡だ。「平日でも混む」と聞き山手線の目白駅からタクシーに乗ったのだが、林の中の洋館前には開場時刻にはすでにかなりの人影があった。
観客の半ばは50~70代の男性だった。けれども我々のような老カップルも目立ち、若い人ではカップルの他に個人も予想以上だ。
4階の肉筆春画『小柴垣草紙』から見て歩き、下の階へと降りる。春画は平安時代の鳥羽僧正の陽物比べから始まり、伊勢神宮の斎宮が警備の武者と縁先や室内でイタす『小柴垣草紙』などが最初期のものだ(展示品は前者が室町時代、後者が鎌倉時代の各写本)。
浮世絵の春画といえば、通常は17世紀後半の菱川師宣あたりからと思うが、今回初めてそれより前(17世紀前半)の長谷川等仙(等伯の弟子)や上層階級専門絵師の狩野派の絵を見て、さまざまな性的刺激や笑いに満ちた本邦性交図の特異性を改めて認識した。
例えば等仙の『花園春画絵巻』は季節ごとの花の中での交合だが、(火照った?)接合部を男が扇子で煽いでいる図、その最中の男の背後から女(妻?)がきて男の首を締めあげる図、男女それぞれ相手の性器を愛撫する図、性交中の青年の尻に年輩男が後ろから突き入れようとする図など、どの場面にも物語があってユーモラスなのだ。
薄暗い館内を歩きながら私は、約半世紀前の大学生時代、初めて春画を見た時の驚きを思い出していた。ニューヨークの書店、豪華なカラー印刷本のタイトルは『世界のエロチック・アート』だった。
当時は日本の書店で性器の載っている本はなかったから、誇張されたリアルな性器そのものが衝撃だったが、ページをめくってゆくにつれて別の感情が膨らんできた。