2024年4月29日(月)

ヒットメーカーの舞台裏

2009年12月14日

奇抜な形状のハンドルが特徴
コクヨ  ユニバーサルデザインハサミ
「エアロフィット」

 指を通すハンドルに穴の開いた柔らかい樹脂を採用することで、長時間の使用もラクにしたユニバーサルデザインの製品だ。粘着テープなどを切った際に糊が付着しにくい構造も採用、改良の余地を見い出しにくいハサミを、大きく進化させている。シリーズの希望小売価格は315円から420円と手ごろであり、8月の発売直後は販売計画を5割程度上回る好調なスタートとなった。

 開発を担ったのは、グループの文具部門メーカーであるコクヨS&Tのクリエイティブプロダクツ事業部部長、岩津博文(47歳)率いるチーム。芸術大学出身の岩津は、開発スタッフとして入社し、一時期を除いてほぼ商品開発に従事してきた。コクヨの文具開発者は、デザインから試作、量産発注までをこなす。岩津は「何でも屋」と笑うが、専門のデザインだけでなく、むしろ製品の最終段階まで手掛けることに楽しさを見い出しているようだ。

 コクヨは1999年から、「誰もが使いやすい」という設計思想によるユニバーサルデザイン商品の投入を始め、現在では約700の品揃えがある。岩津はその提唱者の1人でもあり、第1号の商品群となった片手だけで使えるクリヤーブック(書類ファイル)を開発した。きっかけは、片手に障害を持つ文具店の店主からの「今のクリヤーブックは、肘でファイルを押さえて挿入しなければならない。片手でも使えるようにならないか?」という要望だった。岩津は目を開かされた。「そういう使い方」という固定観念を捨てて、もう一度別の角度から見てみることにした。結果的にファイルの片面を短くすることで、片手で挿入できるようにした。

 こうしたユニバーサルデザインの展開は、開発者としての岩津の大きな転機でもあった。岩津が入社したのはバブル経済が膨らんでいた1989年。あらゆる商品、サービスが右から左へと売れる世の中だったが、ほどなくバブルは崩壊、売れるモノづくりに苦闘する時代が続いた。入社10年目に遭遇したユニバーサルデザインの概念により、消費者に受け入れられる商品開発への自信をつけることができた。

固定観念を捨てるため
当たり前のことでも試してみる

 ハサミにもユニバーサルデザインは採用され、今回の「エアロフィット」シリーズは第4弾だ。開発は07年初めに着手した。営業部門とのミーティングで耳にしたのは、ハサミなど文具の基礎商品分野が「競合他社に苦戦している」という声だった。岩津には痛い指摘だったが、ユニバーサルデザインに着手して10年近くが経ち、多くの商品が「陳腐化しているのではないか」という懸念も抱いていた。そこで、ユーザーの声を改めて聴きながら、ユニバーサルデザインについても「再度強化していこう」と仕切り直した。


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