仕事がら、世界中の中央銀行にお邪魔したことがある。一番驚いたのは、数十年も以前のことだが、イエメン中央銀行に行ったところ、英国のDe la rueという会社から二台のトラックで荷物が中央銀行に着いたのを見た。お札は誰でも刷れるものではなく、先進国以外では、海外に札の印刷を外国の政府系企業に委託していることが多いのだ。我が国もそんな仕事をしていると聞いたことがある。二台のトラックのうち一台はそのまま時の大統領官邸に吸い込まれたのだ。その後は大インフレになったのは当然の帰結であろう。
コーヒー1杯1万円?
日本も日銀経由で札を満載したトラックを永田町にやったらデフレは終わるが、コーヒー1杯1万円の時代に突入することであろう。
これもかなり前のことであるが、欧州のある中央銀行の総裁室から、妙齢の女性が血相を変えて出てきたのを見たことがある。総裁室は権威の象徴で、扉は日本ではあまり見られない二重開きでできている。声は絶対に漏れない仕組みだ。
いろいろな国で中銀総裁執務室に遊びに行ったことがあるが、権威の象徴だけにそれぞれ趣がある。ハンガリー中央銀行には、永久エレベーターがあって驚いた。壁の内側に大観覧車が隠され、ゆっくり回り続けているのだ。このエレベーターには扉がなく、数秒で次がくるので飛び乗ることができる。目的の階にきたら飛び降りることになる。降りる所で運悪く転んでしまえば、股裂か、首切れとなる危ない代物だ。
サウジアラビアの中央銀行には女性のトイレがない。そもそも女性の行員が存在しない。そして、エレベーターに乗ろうと待っていると、数字が左から右に動いて上に向かっていると思った瞬間に扉が開いて驚かされる。アラビア数字は右から始まるのだ。また、総裁室の天井は東京ドームのように高く、大扉に付属した普通の扉から入室するのだ。
ことほど左様に、こけおどしで権威づけの努力を惜しまない人たちでもある。その逆もあることはある。シンガポールの通貨庁に行ったところ、ワイシャツ姿のお兄さんが出てきたので、ティー・ボーイと思い、総裁を待っていると、シンガポール英語で話し始めた。彼が総裁だったのだ。