官邸は米軍側にも再発防止に向けた具体的な取り組みをとるよう強く働きかけ、5月28日にはニコルソン調整官がキャンプ瑞慶覧で記者会見を開き、「地域との交流と対話を増やすため、メディアへの対応を増やしたい」と述べたという。在沖米軍トップがメディアの取材に直接応じるということは極めて異例で、米軍側の危機感の強さもにじませた。
だが、こうした取り組みに水を差すのが、死体遺棄事件後も次々と発生する、米軍関係者による事件事故だ。5月31日には、覚醒剤を米国から密輸したとして51歳の米軍属が逮捕され、同僚の23歳の軍属も大麻の所持で逮捕された。さらに、6月4日に嘉手納町の国道で21歳の女性兵士が飲酒運転をした挙げ句に国道58号線を逆走し軽乗用車2台と相次いで衝突事故を起こしている。
死体遺棄事件で5月21日に中谷元防衛相が米国のカーター国防長官と電話で会談し、カーター長官から「大変痛ましく遺憾な事件であり、心から深い謝罪の意を表明する」との発言があったばかりなのにも関わらず、相次ぐ事件に日本政府関係者は頭を悩ましている。
沖縄県内の全米軍基地の撤去を求める論調
「日米地位協定の見直しはあまりにハードルが高いが、なんらかの抜本的な解決策を示さなければならないのではないか」
そうした意見も官邸内からは聞こえてくる。
地元メディアでは、辺野古移設の反対どころか、沖縄県内の全米軍基地の撤去を求める論調が増しており、6月3日付『琉球新報』では、独自の電話調査により、全基地撤去を求める県民が4割以上に達したとの記事が1面に大きく掲載された。
沖縄では選挙の季節の真っ最中だ。終わったばかりの県議選に続き、7月10日投票の参議院選挙がある。沖縄県選挙区では、自民党から現職で沖縄北方担当相の島尻安伊子氏(51)、翁長知事与党からは元宜野湾市長の伊波洋一氏(64)が立候補する見通しだが、沖縄県内では基地問題が大きな争点となるのは必至だ。辺野古移設では島尻氏が容認なのに対し、伊波氏は翁長知事と歩調をあわせて反対の立場。
その参院選の公示日(6月22日)の直前というタイミングにあたる19日に那覇市内で開かれるのが、米軍属による死体遺棄事件に抗議する県民大会だ。抗議だけでなく、普天間飛行場の閉鎖、県内移設断念、日米地位協定の改定、在沖米軍基地の大幅な整理縮小などを訴えるというが、参院選に向けて伊波候補に有利な環境が生み出されるのは間違いないだろう。
メディアや自民党などによる事前の情勢調査では、すでに伊波氏が優位との見方が支配的だ。そうなれば、現職大臣の落選という事態ともなりかねず、安倍政権の沖縄政策が大きな曲がり角を迎えることになる。
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