リーダーから築く“One Team”
その自分なりのスタイルとは、リーダー自身が有言実行し、自分が成長し続けているところを見せることであり、いまある環境の中で常にベストを尽くすこと。そのうえで、「いつだってみんなのことが好きだし、見ているよ」という姿勢を示していくというものだ。
チーム作りの初めの一歩は、リーダーから、仲間が好きで、チームが好きだという姿勢を見せることによって、それぞれの選手がチームを好きになり「One Team」の土壌が醸成されていくと考えた。前キャプテンとは異なるリーダー像への挑戦だった。
しかし、チームがまとまりつつあったキャプテン就任2年目に、予期せぬ出来事が廣瀬を襲った。所属選手とタクシードライバーとのトラブルである。その後、選手によるドーピング違反が加わった。東芝最大の危機である。廣瀬は追い詰められた。
そのときの思いを著書『なんのために勝つのか~ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論』(東洋館出版社)の中でこう語っている。
―会社から練習再開の許可が下り、皆で集まったその日、僕はキャプテンとして話をすることになった。いままでの僕は、いろいろなことを気にしながら話すことが多かった。でも、その日は何も考えなかった。自分の中から湧いてくる言葉を素直に出した。(省略)
夢中で話した。ほとんど泣いていた。だからなのか、このときの言葉は、いままでで一番伝わったと思う。自分をさらけ出すこと。覚悟を決めること。そして、言葉の力を信じること……。
この瞬間、確かにチームが団結する感覚があった。―
「あの不祥事のときは、なんで俺がキャプテンのときにこんなことが起こるんだ……。と言葉も出ないくらいにショックを受けたのですが、あの出来事が僕をリーダーとして、キャプテンとして確立してくれました」
東芝はそのシーズンのプレーオフトーナメント『マイクロソフトカップ』を制して、ジャパンラグビートップリーグの覇者となった。チームの和で最大の危機を乗り越えたのである。