久松:ちなみに、焼き物への展開については奥さんには?
左藤:話半分にですけど、昔から言ってはいます(笑)。あと何年かしたらガラスはできなくなるよ、老後のことを考えて転換を図ったほうがいいよ、と危機を煽るような言い方をしている。
でも、「この人はガラスだからできたんじゃないか」と妻は思っていると思います。自分ではそう思ってない。ガラスで培った技術が全部チャラになるわけじゃないと思いますね。
ほかのクラフト作家と二人展などをやると、陶芸をやりたいという人がけっこう多いんですよね。この前も木工の人に「実は僕、窯買ったんですよ」とか言われて、うわ、まずいな。と(笑)。焼き物生え抜きじゃなくても、専業でやってきた人にはできないこともあるんじゃないか、と思うんですよね。頭を使ってニッチを狙うのは、ガラスと変わらない。
久松:焼き物生え抜きの人が聞いたら「舐められたもんだぜ」と思うんでしょうね(笑)。
左藤:いい気持ちはしないでしょうね(笑)。
久松:でもわかるな。
左藤:仕事が辛い時に考えるとそれだけでニンマリできますね(笑)。
久松:左藤さんはどんなときに仕事が辛くなるんですか?
左藤:だいたい辛いです(笑)。でも嫌になったことはないですね。作業が面倒くさいだけで、仕事が嫌なわけじゃないです。
久松:僕は現場が辛くて嫌になるタイプじゃないんですけど、上の立場の人間が現場にずっといるのは働きにくいから、頭で考えて現場を離れるようにしてきました。
左藤さんと状況が少し違うのは、今は農場長のほうが僕より現場の仕事が上手いんですよ。自分よりも上手い人間が仕事を奪ってくれたから受け入れることができたけど、下手だったらどうなっていたのかわからない。でも、自分より上手い奴が現れるまでやめなくてよかったと思っています。幸福なパターンだと思いますね。(完)
左藤玲朗(さとう・れいろう)
1964年大分生まれ。立命館大学文学部卒。沖縄「奥原硝子製造所」などで経験を積んだのち、2001年、兵庫・丹波に「左藤吹きガラス工房」を設立。2009年に千葉・九十九里に移転。2015年には文筆家・木村衣有子が左藤に取材し執筆した『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』(亜紀書房)が刊行された。
久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)入社。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。SNSの活用や、栽培管理にクラウドを採り入れる様子は著書『小さくて強い農業をつくる』 (晶文社)に詳しい。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成に力を入れている。他の著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。