かくして2009年、中国は「2009 中国加油」で語られている問題に対して何一つ具体的な建設的対応をとらなかった。もしそうするならば、それはただちに対外的(あるいは「分裂主義勢力」への)妥協と見なされ、体制が返り血を浴びるからである。安易に既存の枠組みを変え、不透明な将来のためにコストを支払うよりも、何もせずに弾圧を加える方が権力のコストは安く済む。
いっぽう、金融危機後の混沌にあえぐ世界は、矢継ぎ早な需要喚起策に打って出た中国経済に一層依存する立場を示し、中国の諸問題に対し敢えて長期的な視野に基いた批判的な立場をとろうとしなくなった。まさに「中華に反する者は立ち直る余地なきほどに踏みつけられ」「天朝の鉄の馬を誰も止められない」かのようである。
中国は約20年前の社会主義圏崩壊と冷戦の終焉以来、世界の情勢は多極化にあると見通した。そして、他国の干渉を退けて自国が主導権をとるためには、中国と他国の経済的相互依存を完全に切り離せないものにすれば良いと判断し、その通りに実践してきた。最早中国は「世界の工場」「未来の超大国」であり、まだまだ埋める余地のある格差がそのまま半永久的な経済発展の伸びしろであると思える以上、放っておいても外資は中国を見捨てずに貢ぐであろう、とすら考えているのではないか。
2010年、中国は頑張るのか?
したがって、中国は2010年も政治的には頑張らない。そして、国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の際に見られた、今後の莫大なCO2排出可能性に対して無責任きわまりない(むしろ日本の血の滲むような努力を「到底足りない」と非難するとは!)態度をとったことにも象徴されるように、多極化=まとまりのなさの一途をたどる世界で自己主張を強めることであろう。諸外国は中国の爆発的な高度成長と剥き出しの権力に幻想と不安を抱き、ますます「頑張らない中国」に資金を注ぎ、不安の種を膨らますという矛盾に陥る。
しかし、現在の中国の姿は有り体に言って、昭和30年代末期から40年代中期の日本である。中国はもともと教育水準がそれなりに高く勤勉な労働力を擁する国である以上、経済的テイクオフ後の長い発展が続くこと自体は疑うべくもない。高速鉄道・高速道路や地下鉄といった交通網への莫大な投資を通じた経済加速策も、毛沢東時代の統制以来著しく欠如していたものを今になってようやく埋め合わせようとしているものであるので、別に驚くには当たらない。五輪も万博も、テイクオフを実現した国へのご褒美のようなものであろう。むしろ、巨額のインフラ投資や家電製品の普及が一通り済む段階が将来やってきたとき、政治的に「頑張らなかった」ことのしわ寄せが顕在化するだろう。
日本はむしろ、中国の如何なる将来にも柔軟に対処するべく、危機の時代だからこそ「頑張る」ことが必要である。しかし、「第2位でも良いのでは」と宣って、最も良き価値を追求する人類社会全体の競争から脱落することに無頓着な人物や、マニフェストという名の教条主義にとらわれるあまり予算の執行を止め、弱含みの景気の腰をさらに折る行為が政界に満ちあふれるようでは、中国は「何事にも頑張るのを止めた日本」を座して冷笑するのみとなろう。
※次回の更新は、1月13日(水)を予定しております。
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜
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