――確かに、説明が一行だったりしますね。
小川:図鑑もそう。歩いていて花が目にとまった時に、あの花の名前はなんだろうって、ネットで検索するのはまだ無理ですよね。画像を照合して候補を出すっていうサービスの研究は進んでいるようですが、まだ一般的ではない。また、観光名所をグーグルの地図で探せるかといったら、明確に地名を知っていないと調べられません。検索するにも知識が必要で、子どもにとってはそこが難しい。
なぜ図鑑や辞書や地図がいいかといえば、編集者が情報をきちんと整理して、必要なものを目立たせてくれているからです。「なんでもネットに載ってるからいい」っていうのは、「ネットには文字がたくさんある」って言ってるのと同じですよ。例解小学辞典シリーズ(三省堂)はビジネスマンには内容不足で役立たないけれど、逆に広辞苑は小学校低学年には使えない。想定される読者とその背景を理解して、どう届くかということを編集者が考えてまとめてくれたものが辞書、図鑑、地図。気づきを生みやすい情報を集合させて、わかりやすいかたちで整理してくれている本の力は、インターネットでは置きかえられません。
――子どもの好奇心を考えれば、本来そういうものを自然と手に取りたくなるはず?
小川:そうですね。ネットの中に何でもあるって言う知識人もいるけれど、そういう人こそたくさん本を持ってるし、読んでるんですよね。当時IT新興ビジネスで時代の寵児ともてはやされたホリエモンさんも、刑務所で1000冊読んだって話ですよね(笑)。読むだけ読んでる人がネットには何でもあるってうそぶくのはどうなのかな。少なくとも子どもにとってはそんなことありません。
――あらかじめ知識があるからネットにある散らばった情報も探せる……ということなのでしょうね。
子どもからチャンスを奪う大人とは
――どんな子でも勉強好きになると小川さんは仰います。でも一方で、大人のほうが「自分はそれほど学歴がないから、子どももきっとそんなに勉強できないだろう。期待するのもかわいそう」って思ってしまうことがありそうです。
小川:親が東大出身で東大に行く子もいるし、学歴がない親御さんの元から東大に行く子も実際います。でも後者より前者のほうがやっぱり多い。それってなぜかというと、後者の場合は学力を伸ばすための行動を親が知らず知らずのうちに邪魔することが多いからです。家の中に本がないとか、図書館に行く習慣がないとか、生活時間が不規則だとか。そういうことがすべて「邪魔」になります。子どもは自ら育とうとする力を持っています。どの方向に伸びようとしているのかを見てやり、環境を整える。それが、「邪魔をしない」ということです。
高学歴な人の多くは、「勉強はいいこと」っていう信念がある。そういう親の元で育つのと、「勉強なんてしても何もいいことがなかった」っていう人生観を持っている親の元で育つのと、どちらが勉強するチャンスを邪魔されないかというだけの話ですね。