――先生の作品に描かれている建物や人物はほとんど正面を向いていて、とても迫力を感じます。また、細い線を削るときでもわざと太い彫刻刀を使われるとか。それらは大胆さを出すために計算してされたことですか?
木田氏:もちろん計算づくです。僕は、かすれの端まで計算してやっていますから。棟方志功さんの作品には偶然に生まれた美があるが、僕の作品に偶然はない。版ズレというものもほとんどない。もしもズレていたら意識的にズラしているんです。そこまで意識して作るのが僕の版画。だけど、普通はそれをやるととても息苦しいものになってしまう。それを乗り越える版画が僕の目指すところやったわけです。
――お寺の絵なのに抹香臭くなく、生き生きとしていて、ユーモアや可愛らしさがあるのも魅力ですね。
木田氏:僕の若い頃の作品集を見ていただくと、どこかに「おっ」という部分があって、ちょっと見ただけではわからないと思うけど、菜の花畑で女の人が足を上げていたり(笑い)……。どこかに遊びがある。遊ばなかったら、絵なんかおもしろうない。この「西国三十三所」にもそういうのがないか楽しんで探している人もおられると思いますが、今回はユーモアを持ちながらも、作品のモチーフに対する僕の気構えは全く違うのです。
――5年の歳月を費やした制作期間には、目の病や体の痛みなどと闘い、凄まじいまでのエネルギーをかけて完成されたとお聞きしています。
木田氏:眼底からの出血を恐れてアルコールも断ち、寸暇を惜しんで制作に打ち込みました。1日中机にしがみついているので、首から背中、腰が歪んで、身体が動かなくなる。それで2週間ごとに神経ブロックの注射を打つ。この注射は普通は痛くてたまらんらしいけど、僕は通常の3倍ぐらい打った。それぐらい僕の身体はむちゃくちゃな状態でした。
――4年目にはガンも見つかったとか?
木田氏:そう、だいたい僕はガンにならない体質やと思ってたけど、非常に疲れて、眼底から出血したので、おかしいと思って検査したら、肝臓に小さいガンが2つ見つかった。簡単にカテーテルでやっつけてもらいましたけどね(笑い)。
――そうまでして制作を続けられたのはなぜですか?
木田氏:それが分からんのです(笑い)。僕は遊ぶのが好きやから。できれば可愛い女の子とデートもしたいし(笑い)、いろいろ忙しいのですが、堂々と遊ぶには仕事をちゃんとやらにゃいかんという気持ちが強いのと、やるからにはいいものをつくらないといかんと思うんです。