トルコが直面する問題は複雑です。国内情勢の安定化の一助をロシアに求めようということらしく、ロシアに急速に接近しつつあります。この論説の観測によれば、それはロシアの制裁の解除は当然として、アサド政権打倒という目標を犠牲にしてでも、ISISとの戦闘に協力を取り付け、クルド勢力の支援を止めさせることにより、ISISとクルド勢力の2つの敵と戦うということのようです。
しかし、クルド勢力について言えば、それだけで抑え込めるとは思われません。何等かの政治的方策を要するでしょうが、具体的には明らかではありません。トルコは、アルジェリアを通じてアサド政権との間にクルド対策について非公式チャネルを設けるに至っているとの報道があります。このようなトルコの動きが現実化すれば、それはシリア問題の構図を一変させる可能性があるでしょう。
NATO全体に深刻な問題
プーチンとエルドアンが演ずる狐と狸の化かし合いかも知れませんが、トルコがロシアに取り込まれつつある様子が懸念されます。論説が指摘する諸々の問題のゆえに、トルコの近傍で生じているロシアの地政学上の挑戦に抵抗するトルコの能力は弱まる恐れが強いです。それは、シリア問題への関与とクリミア奪取に伴うロシアの軍事的プレゼンスの拡大という問題です。問題はひとりトルコの問題ではなく、NATO全体にとっての深刻な問題です。シリア問題といい、ロシアの地政学上の挑戦といい、トルコは本来NATOを頼って然るべきですが、必ずしもそうとはなりません。振幅の大きいトルコの外交にNATO諸国は振りまわされることになります。
論説が論ずるロシアへの接近は問題には違いありませんが、それ以上に深刻に受け止めるべきことは、クーデターが露呈したトルコの安定性それ自体ではないかと思います。ギュレン師がクーデターの首謀者かどうかはともかく、ギュレン運動は軍、司法、警察に浸透するに至っていました。ギュレン運動とエルドアンの一派の権力争いの過程で、軍もまたこれら2つのグループと世俗派の3つに分裂した様をクーデターは明らかにしました。エルドアン政権の下で軍の権威が全体として沈下した様も明らかとなりました。世俗主義の守護神を任じていたかつての軍の姿はなく、国家の主柱としての軍が傷ついたことは大きな懸念材料に違いありません。
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