指数関数的な速度での変化が始まる
ディープラーニングと呼ばれる機械学習が可能となったことで、脳の仕組みを取り入れたニューラルネットワークというアルゴリズムの精度と実用性が飛躍的に向上し、これまで何度か期待を裏切ってきたAIへの注目度が一気に高まっている。
未来学者レイ・カーツワイルが2005年に書いた『シンギュラリティは近いー人類が生命を超越するとき』では、人間の脳の構造が研究しつくされてコンピュータが超高性能になったときシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れ、科学技術によって人間の能力が根底から覆り変容する。カーツワイルは、2008年に教育機関とシンクタンクの機能を備えたシンギュラリティ大学を創設し、2012年にはグーグルのAI開発ディレクターへと転身している。
シンギュラリティ大学は、グーグルをはじめ、シリコンバレーの有名な企業がこぞって出資したことで大きな話題となった。大企業の役員クラスの人間が続々とその教育プログラムに参加し「テクノロジーの指数関数的成長を取り込んで世界を一歩前に進める」というそのミッションが、 シリコンバレーで広く共有されているという。シンギュラリティという概念には「人間が生みだしたテクノロジーの変化は加速を続けていて、そのインパクトも指数関数的な速度で拡大している」という基本的な考えがある。
カーツワイルは、指数関数的な成長というものはつい見過ごしてしまいがちだと言っている。最初は目に見えないほどの変化なのに、やがて予期しなかったほど激しく爆発的に成長する。変化の軌跡を注意深く見守っていないと、まったく思いもよらない結果になると。
シンギュラリティの先にあるもの
ハリソン・フォード主演のハリウッド映画『ブレードランナー』の原作となったフィリップ・K・ディックの1968年のSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の世界には、すでにシンギュラリティが訪れていて、本物そっくりの機械仕掛けのペットの羊が登場する。そしてその技術により生み出されたアンドロイドは感情も記憶も持ち、自分が機械であることすら認識できないほどになっている。
シンギュラリティの後には、人間と機械が統合された文明が人間の脳の限界を超越するとカーツワイルは予言している。それは明るい未来なのか、映画『ターミネーター』のような人間が機械に支配される未来なのだろうか。
MITのソーシャルロボティクス専門家、シンシア・ブリジール准教授が設計したJiboは、楽しそうな未来がすぐそこまで来ていることを予感させてくれるのだが。
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