クリントン候補の立場に立ちますと、内政及び外交・安全保障政策の知識をひけらかすよりも、トランプ候補の確定申告非公開やトランプ財団のフロリダ州パム・ボンディ司法長官に対する不正政治献金問題を攻撃し、クリントン財団の便宜供与疑惑及びメール問題と「ブレンド」してしまう戦略が効果的でしょう。ブレンド戦略とは、種類や品質が相違したコーヒー豆を混合して薄めるように、相手の攻撃を弱めるための他の議論や争点を持ち出して混ぜてしまう戦略です。
慈善事業に従事するはずのトランプ財団が、再選を狙うフロリダ州ボンティ司法長官の関連団体に2013年9月、2万5000ドル(約225万円)の政治献金をしていたのです。ガーディアン(電子版)によりますと、当時フロリダ州の検察当局はトランプ大学の詐欺問題の捜査を検討していましたが、同司法長官は十分な証拠はないとして捜査を取りやめたのです。
クリントン候補支持を表明している民主党のジェリー・コノリー下院議員(バージニア州第11選挙区)はワシントンでテレビ討論会に関する筆者のインタビューに次のように答えてくれました。
「メディアは、クリントン財団とトランプのフロリダ州司法長官への不正な政治献金の問題を同等に扱っています。これは間違いです。クリントン財団が便宜を図ったという証拠はありません。トランプが彼女(ボンディ司法長官)に献金をした証拠はあります」
ちなみにメール問題に関しては、下院外交委員会に所属するコノリー議員は次のように述べました。
「メール問題よりも、トランプが日本と韓国の核保有を容認した発言の方が問題です」
大統領としての資質
テレビ討論会でクリントン候補は、トランプ候補を米軍最高司令官になる資質に欠ける候補として描くでしょう。「核のボタン」を任せることができない危険人物として有権者に訴えるのです。
それに加えて、トランプ候補の資質を問う新たな問題が発生しました。トランプ候補は、2011年からオバマ大統領の出生地は米国ではないと述べて、大統領の資格がないと主張してきました。どころが、同候補は突然その発言を撤回したのです。その狙いは、アフリカ系の票の獲得であることは明らかですが、同候補の大統領になる適性を問われる発言が含まれているのです。
トランプ候補は、2008年クリントン陣営がオバマ候補(当時)の出生地の論争をはじめ、自分が今それを終わらせたと記者会見で発言したのです。これは事実に反します。しかも、同候補は自身の認識の誤りに基づいた発言に謝罪するどころか、オバマ大統領の出生地の論争に自分が終止符を打ったとして手柄にしているのです。
この件に関して、クリントン候補はテレビ討論会でトランプ候補に訂正並びに謝罪を求めるでしょう。クリントン候補は、トランプ候補を「嘘つきドナルド」と直接呼ばないまでも、そのような印象を有権者に与えて同候補の大統領になる資質を問う絶好の機会を得たのです。