現地リポートの3回目は、「迷走するトランプ陣営」です。ウクライナの親ロシア派ヤヌコビッチ前大統領が率いた与党「地域党」から1270万ドル(約12億7000万円)の資金を受領した疑惑が浮上すると、トランプ陣営の選対議長ポール・マナフォート氏は、一旦事実関係を全面否定しましたが、結局辞任しました。
本稿では、ベテラン政治コンサルタントマナフォート氏に対する不動産王ドナルド・トランプ候補の心境と機能不全に陥ったトランプ陣営を分析します。
自己愛と注目度
トランプ候補は、共和党候補指名争いにおいて政治的配慮に欠いた率直な発言で話題を集めて支持を得てきました。ところが、イラクで戦死したイスラム教徒の米軍人の遺族を非難した発言は、民主党支持者のみならず共和党支持者からもまったく受容されませんでした。政治的配慮の欠如も甚だしい発言だったのです。同候補は、米軍人の遺族に対する中傷で、以下の4つの致命的な過ちを犯してしまったのです。
第1に、米軍最高司令官になる資格がないという印象を与えてしまいました。米国では大統領が軍人の遺族に対し敬意を払うのは至極当然のことです。第2に、南部に住む多くの退役軍人に対して発言がどのような影響をもたらすのかを考慮に入れなかったことです。共和党候補指名争いでトランプ候補は、退役軍人から熱烈な支持を得てきました。その退役軍人の家族を批判してしまったのです。第3に、有権者の間に同候補の反イスラム教徒のイメージが、一層強化され固定化されてしまいました。第4に、戦死した兵士の母親に対して、感情移入ができなかったことです。共和党全国党大会における演説で、子供たちが人間愛のある父親として同候補を描きましたが、感情移入のできない過度に自己愛の強い人間であると自ら証明してしまったのです。
南部バージニア州フェアファックス市の選挙対策事務所開きに参加した白人の大学生が、両親について筆者に語ってくれました。
「私は民主党支持者ですが、両親は共和党支持者です。両親はトランプには投票しないと言っています。軍人の遺族を攻撃するのは共和党の価値観ではないとトランプを批判しています」
トランプ陣営は、米軍人遺族に対する中傷によって生じた危機的状況に直面している時に、さらなる問題を抱えることになったのです。それが、上で述べたマナフォート氏の巨額資金の受領疑惑でした。米メディアは、連日マナフォート氏を多く取り挙げるようになったのです。自己愛的人格を持つトランプ候補は、マナフォート氏ではなく、常に自分に関心と注目が集まることを望んでいるのです。選対の中に、自分に対する注目度を低下させる人物は必要がなかったのです。