出口 450人のママに希望を与えていることは素晴らしい。肝心の仕事はどのように作っているのか?
藤代 当社は入力業務などの事務作業や電話営業などの業務を企業から請け負っており、働きたいママとのマッチングを図っている。ママたちが当社で働くメリットは2つある。1つは、仕事も保育も職場で完結するので、仕事に専念できること。もう1つは、当社で経験を積んだママたちが、次に就職活動をするときに、例えば履歴書に「ウインドウズ10を使って大企業から請け負った電話営業の仕事を5年やってきた」と書くことができるので、子育て期間中もブランクなく働いてきたことを面接でアピールできることだ。
出口 なるほど。日本は子育てが非常にしにくい社会・経済構造だと感じているが、例えば政府の規制や指導方針などで気づかれたことや、懸念されていることはあるか?
藤代 法的には保育所でも託児所でもないが、将来的に新たな規制がかかる可能性は十分にあり、危惧している。今後の規制強化に備え、念のため保育スペースの広さや保育士の人数、避難経路などを認可外保育所の基準に合わせている。「消費者目線」に立って経営することで待機児童を減らし、育児中のママの雇用を生むなど保育の形を進化させてきた。企業からは特に郊外で「連携したい」という引き合いが多いが、残念ながら保育業界からは歓迎されない動きもある。
出口 消費者が喜ぶことを実践すれば、支持が集まるのは当然だ。市民に支持されるサービスこそが、事業を続ける上での一番の防御壁になるはずだ。保育業界の圧力は強まると思うが、社会的に意義のある事業に、規制を強化することは難しいだろう。
企業が寄り集まって 福利厚生をアウトソースする
出口 御社は郊外型に続き、六本木ヒルズ内に保育スペース付きのオフィスを作り、複数の企業に貸し出すサービスを始められた。子どもの預け先が見つからずに育休から復職できない多くのママたちも、このサービスによって、子どもと一緒に通勤して、働くことが出来るようになる。育児中の女性の大半は、職場を退職して子どもを育てたり、保育所に預けたりしているが、職場に子どもを連れて働くという選択肢も本来あって当然だと思う。
ただ、一つの企業だけで保育スペースを確保し、子どもの傍で働くという「職住近接」を実現することは難しい。だから複数の企業が集って共同オフィスを作ることで、いわば福利厚生事業の一部をアウトソースするというアイデアだ。この仕組みは非常に社会的意義があると思う。