また、子どもを産みたいときに産むことができる社会を実現するには、義務保育にすべきだ。小学校からは義務教育なのだから、義務保育があってもおかしくはない。財源がどれくらい必要かといえば、大体10兆円程度で、消費税を3%程度上げれば実現できる。子どもを育てることは「社会の宝を育てること」という視点をもち、社会全体を作り直すことが求められている。ある女性向けの調査では、「日本男性の7~8割は家事も育児も介護もやらない」という結果が出ている。その要因は、長時間労働の常態化だ。
「時間ではなく成果で」 評価制度改革の必要性
藤代 出口会長のような考え方をする管理職が企業の中に少ないことも問題だ。女性の活躍を阻害している要因として、労働時間の長さが評価軸になっていることが挙げられる。ただ、長時間労働が課題だと頭では分かっていても、なかなか考え方を変えられない管理職層の方々も多いのではないか。
出口 まったくその通りで、旧来の考え方を変え、行動に移すことは難しい。我々の世代は長時間労働が戦後の成功体験として体に染み付いてしまっている。30年もの間企業社会の中で長時間労働をしてきたので、「長時間労働が当たり前になってしまっていて体が言うことを聞かない」と話す友人もいた。そうした人たちの考え方を無理に変えようとしてもうまくいかない。大事なのは仕組みを変えることだ。
長時間労働を削減するにはこれまでの労働慣行すべてを見直す必要がある。「冷戦、工場主導のキャッチアップモデル、人口の増加」という3つの前提条件の下では、「青田買い、終身雇用、年功序列、定年制」というワンセットの仕組みが合理的だった。そして年功序列なら極論すれば仕事の成果は問われない。そうなると、上司は部下の成果よりも組織への忠誠心やその表われと考えられる残業時間で評価する傾向になる。しかし、2次産業から3次産業に移行する中で求められるのは「時間」ではなく「成果」だ。上辺だけの成果主義を導入するのではなく、「成果」を追求しやすい評価制度や働き方に根本から変えなければならない。一言で言えば「同一労働、同一賃金制」への移行が必要だ。
藤代 今はGmailやスカイプがあり、場所や時間に縛られずに働くことができる。
出口 「セキュリティーの問題はどうだ」といわれそうだが、日本企業のメールで、Gmailより堅牢で安定性の高いメールはないと聞く。グーグルの最優秀層がシステムを構築しているという意味では、よほどGmailの方が安全だと思われる。その辺りも、企業は考え方を変えなければならない。これまでは工場労働を念頭において社員が1カ所の職場に集まり、全員で仕事をしなければ仕事が回らないと考えられてきた。それは時間と空間という働く上での壁があったからだが、インターネットによってその壁は低くなった。女性活躍社会を実現するためには、企業は旧来の雇用慣行を見直すとともに新時代に合った働き方を模索していかねばならない。(敬称略)
(写真・山本宏樹)