「(前略)ケネディ・ジョンソン両大統領を『貧困への戦い(War on Poverty)』の宣言へと導いたのは、一九六二年に公刊されたM・ハリントンの『もう一つのアメリカ――合衆国の貧困』である。この本の中で、ハリントンは、実は米国社会の中に四〇〇〇万から五〇〇〇万の人々からなる『見えない国(invisible land)』が存在する、というショッキングな指摘を行った」(p123)
まさに、当事者であったエドワード・ケネディも回顧録の中で、幾度かハリントンの著書について言及している。例えば、次の一節は猪木の指摘とほぼ同じだ。
Bobby was most stirred by Michael Harrington, whose landmark study of “invisible” poverty, The Other America, had been published two years earlier. JFK and LBJ were also struck by the book; it energized Jack’s attention to the poor, and served as impetus for Johnson’s War on Poverty. (p229)
「(兄の)ロバート・ケネディはマイケル・ハリントンの著作で、“見えない”貧困に関する画期的な研究である、2年前に発刊した『もう一つのアメリカ』に最も心を動かされた。ジョン・F・ケネディ大統領とリンドン・ジョンソン大統領もともに、その本に感銘を受けた。ケネディ大統領の貧困に対する関心を高め、ジョンソン大統領の『貧困への戦い』を推し進める原動力になった」
意外なところで、本と本がつながるのも、読書の楽しみのひとつだ。そんな思いを改めて深めた。
縁遠い日本
さて、アメリカを代表する政治家であるにもかかわらず、同盟国である日本についての言及は実質的に全くない。第2次世界大戦の時に、ジョン・F・ケネディが怪我をしたのが日本軍のせいであることを記す際に日本が出てくる程度だ。ケネディ大統領が暗殺されてまだ数か月しかたっていないときに、ロバート・ケネディと、その妻のエセルが日本を訪れたときの様子についてはこう書いている。
In Japan, Bobby and Ethel witnessed a tumultuous outpouring of friendship from the people, who wanted to show their respect and love for John Kennedy through Bobby’s presence. I believe that that reception restored his faith that life was worth living after all, and that President Kennedy had achieved something lasting and worthwhile. (p211)
「日本で、ロバート・ケネディとその妻エセルは、日本人のあふれ出る親愛の情に包まれた。日本の人々はロバート・ケネディを通じて、ジョン・F・ケネディに対する尊敬と愛情を示したがっていた。日本の歓迎ぶりで、人生は結局、生きる価値のあるものだというロバートの信念が呼び戻されたと私は信じる。ケネディ大統領が時間がたっても朽ちない価値ある何かをなし遂げたという思いも改めて強めたと思う」
ベトナムや中国、ソビエト連邦、アフリカ大陸に赴いた思い出話は出てくるものの、アメリカを代表するリベラル派政治家の回想録に、日本の話が出てこないのは残念だった。
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