2024年4月19日(金)

田部康喜のTV読本

2016年10月5日

 第1週「想いをこめた特別な品」では、冒頭の回顧シーンから一気に、すみれの少女時代(渡邉このみ)の昭和9(1934)年に戻る。姉のゆり(内田彩花)がしっかりと自分の意見をいえる少女であるのに対して、すみれは自分の考えを声に出していうのが苦手である。

 姉妹の父親は坂東五十八(生瀬勝久)。神戸で繊維会社「坂東営業部」を営んで高台に洋館を新築したばかりの資産家である。

 娘のために特別にあつらえた洋服について、五十八は「特別につくった別品(べっぴん)やで」という。

 制作統括の三鬼一希はタイトルに、この特別な品という意味と「生き方の美しいヒロインの姿」を重ねた、と述べている。三鬼はこれまでも数々の連続テレビ小説にかかわってきた。

 病院に入院している母・はな(菅野美穂)のお見舞いに、すみれは刺繍をほどこしたハンカチを持っていく。刺繍がなにを表現しているのか、つたないために五十八は「わからん」という。はなは、すぐに「ゆりとすみれね」とうなずく。

 すみれは母への特別な品が周囲に理解されなかったので、母の手からハンカチを取り返して走り去る。

語りは母親役の菅野美穂

 すみれはいったん、こうと決めたらやり抜く気質をそなえている。刺繍がうまくなりたいと思えば、就寝時刻を過ぎても幾度も繰り返す。革靴も糸で皮をつないでいくのだから、そのヒントを得ようと、父親の靴をはさみでばらしてみる。

 すみれは一途さとともに、周囲に対する優しさを持っている。女中の娘の明美がダイニングルームに置かれた菓子を眺めて、盗ろうとしたと誤解されてしかられたとき、すみれは明美の後を追ってその菓子を包んだハンカチを差し出す。明美はすみれが去ると、ハンカチを投げ捨てる。

 少女の感傷と、それに対する反発。少女時代の心の動きが細やかに描かれる。

 ドラマの場面はテンポよく展開していく。その一方で、ゆったりとした時間の流れを感じさせるのは、語りが母親役の菅野美穂であり、神戸の上品な言葉が画面を覆っているからだろう。


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