元々、大学では体育会系の部活をやっていたこともあり、何よりも重要視しているのが「チームワーク」だった。その言葉を実践すべく、最初にHさんが着手したのが、300人との食事会。さすがに1回で完了することはできず、20人ずつのランチ会を15日に分けて、社員一人ひとりと向き合った。その場で伝えたのは、会社の方向性。「今後、この会社をどうしたいか」「何が課題なのか」「どうすれば解決できるのか」を食事をしながら、じっくり丁寧に説明した。するとタイ人スタッフたちはこれまでにない驚いた様子をみせ、「こんなことは初めてです」といたく感動したらしい。
「歴代の社長はそんなことしなかったからね。でもそういうことって大事でしょ」。ときにHさんがスタッフに料理を取り分けてあげると、年配の女性工場員(ワーカー)は涙を流しながら「社長とご飯を食べるのも初めてです。こんなことまでしてもらえるなんて」と喜んだ。「えてして勘違いしちゃう日本人社長も多いけど、こうしてワーカーさんとご飯を一緒に食べるだけでもわかり合えるもんなんだよ」。
努力のかいあり会社が急成長、ボーナス支給を朝礼で宣言
Hさんの地道な努力の結果、会社も急成長を遂げる。ワーカーもHさんの熱意に引っ張られるように不良品と時間外労働を大幅に減らし、一方で生産量を向上。利益率を高めたことで、2016年の売り上げは右肩上がりとなり、今年に入り2度も売り上げ記録を更新した。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。「うれしいに決まっているよね。だからさぁ、全社員にボーナスを出すって、決めたんだよね。最初、1人に5000バーツあげようとしたら、経理に『さすがにそれはやめてください』って止められちゃった(笑)」。
5000バーツといえば、日本円なら約15000円。物価が3分の1であることを考えると、45000円に相当する。さすがに経理が止めるのも当然だろう。結果、落ち着いた金額は2000バーツだった。それでも平均1万5000バーツで働くワーカーにとっては大きな臨時収入であることは間違いない。毎週月曜日の朝に行う朝礼で、Hさんは全スタッフを前に「2000バーツのボーナスを出すぞー!」と高らかに宣言すると、嵐のような拍手喝采が湧いた。続けて「これはチームで頑張った結果なんだ。だからこの2000バーツはチームで使ってほしい。旅行に行くもよし、食事会をやるもよし」と伝えると、後日、Hさんのフェイスブックには、スタッフたちの楽しそうな会食の様子などが届けられるようになった。「株主を喜ばせるのも俺の仕事だけど、それだけじゃない。社員を喜ばせるのも俺の仕事なんだよ」。