社長という地位への気遣いに、来タイ当初はストレスも
そんな順風満帆のHさんも来タイ当初は悩んだという。1対300。孤独にならないわけがない。「最初の頃は俺がイライラしたり、2回くらい声を荒げたよ。俺の知らないところで物事が進んでいたりしてさ。だけどね、俺の早とちりもあったりしたんだけど、結局はタイに限らず、コミュニケーションの問題に尽きるよね」。その後、反省したHさんはあえてタイ人スタッフ同士でコミュニケーションさせることを重視し、自身はマネージャー層に細かく指示。情報の伝達を明確にすることで、トップダウンよりも、業務が円滑に進むことを学んだ。「信頼できる部下に伝える方がよっぽどうまくいくんだよ。社長に言われると人間って誰でも萎縮しちゃうよね。ましてやこの国は社長の地位が高いから。俺はスタッフとの食事会はやるけど、それはモチベーションのためなわけで、細かい業務連絡はやっぱりタイ人スタッフに任せた方がいいよ」。
この国では、富裕層や地位の高い人間が尊敬される傾向があり、この辺りはHさんの豊富な海外駐在経験の賜物と言うしかない。「食堂のワーカーさんのスペースはクーラーも効かないようなところなんだけど、社長用にわざわざクーラーが効くVIP室も作ってくれてさ。俺はみんなと食べたいのにね。だけど、よくよく聞けば社長と普段からご飯を一緒に食べたくないんだと。それがストレスになるって。冷静に考えれば、俺も本社の社長と毎日昼飯が一緒だったらストレスだもんな(笑)。それ以降はそのVIP室で食べるようにしてるんだけど、残したら調理するスタッフが青ざめた顔して駆け寄ってきて『何か問題でもありますか?』って聞いてくるし、そんな気遣いも最初はストレスだったな」。今だからこそ話せるとHさんは豪快に笑い飛ばす。
業績は順調で、あと数年間はタイで駐在するというHさん。持ち前の“人間力”で荒波を乗り越える姿勢には驚きを隠さずにはいられない。一方で、この地には決してHさんのような状況だけではない人がいることも確かだろう。今後もタイで躍動する日本人の姿をお届けしたい。
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