これから本格化するベトナム第2期工事受注商戦に向けて、まさにオールジャパンの力が問われる状況だが、日本メーカーがそれぞれの強みを生かして個別に対応すればよいと、国の支援に批判的な声があることも事実。たしかに三菱重工、日立、東芝の実績や主要コンポーネントを含めたモノ作り力は世界トップレベル。例えば三菱重工は、米国向けの取り替え用上部原子炉容器の輸出実績では「アレバとトップシェアを争っている」(澤常務)と胸を張る。日立も米GEが受注したスイスや台湾の原発向けに炉内構造物や圧力容器などを供給した実績を生かして「主要コンポーネントの輸出にも力を入れる」(長島葊忠・日立GEニュークリア・エナジー経営企画グループリーダー)方針だ。
とはいえ、既に原発の運転実績がある米国や欧州など先進国と、実績のない新興国向けでは、ビジネスのスタイルも異なるとみるべきだ。今後、新規原発立地が予想されるベトナムやヨルダン、タイ、インドネシアなど新興国向けの商談では、法体系の整備や運転要員などの育成協力、それにNPT(核不拡散)体制維持を前提にした2国間の原子力協定の締結など、国の支援策と合わせた官民一体の体制構築が不可欠だ。
遅まきながらも、国は経済産業省を中心に動いてきた。資源エネルギー庁は昨年6月、電気事業連合会や日本電機工業会、日本貿易振興機構(JETRO)、日本原子力学会など産官学で構成する「国際原子力協力協議会」を発足。原発メーカーの国際展開に向けた課題の抽出やあるべき姿を模索し始めた。
また原発は裾野の広い産業だけに、プラントメーカーだけでなく、バルブやポンプといった主要コンポーネントメーカーの強化・育成にも乗り出した。「主要コンポーネントメーカーの海外展開を支援する」(三又原子力政策課長)のが狙いで、研究開発費の一部を補助しようというものだ。昨年8月、超大型鍛造品の日本製鋼所、主蒸気安全弁の岡野バルブ製造(北九州市)、炉心冷却用ポンプなどの荏原製作所、超大型蒸気発生器のIHI、大型鋼塊鍛造技術の神戸製鋼所の5社を選定した。
だが、現実はあまりにも遅い。実際、協議会で議論が始まった同時期に韓国は李大統領が、フランスではサルコジ大統領がUAEやベトナムなど原発の建設計画を持つ新興国を飛び回っていたのだ。
それに民主党政権は、原発輸出が経済成長に直結するというビジョンに対する具体的な工程表を、未だ示していない。逆に新たなライバルに浮上した韓国は1月、「原子力輸出産業化戦略」を発表、30年までの中期目標として「80基以上の輸出」、「新規原発シェア20%の獲得」を宣言した。これを見た重電メーカー関係者は「政府の入れ込みようが違う。早く手を打たないと大変なことになる」と危機感をあらわにする。
いつか来た道──。半導体や家電など絶対的優位な分野で韓国の追い上げに屈した日本企業。原子力も決して例外ではない。
ガンバレ 鳩山首相
打つべき手は見えている。まずは外交。そのキーワードは「生活インフラをパッケージで提供することだ」と経産省幹部は断言する。新成長戦略にも明記されているこの戦略は、原子力や鉄道、水、環境技術といった新興国が求めているあらゆる生活インフラを丸ごと提供しようという産業政策だ。これまでの自動車や家電といった単品でのビジネスでは競争力の低下は避けられない。アブダビでの敗退も、「強み」を自負する原子力でも単品では勝てないことを示したといえる。