2024年6月16日(日)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年3月8日

 財政赤字も同じである。普通は財政赤字を大きく増やせば、金利が上がり、優良な価格では国債が売りにくくなるのが理屈だ。しかし、ユーロ圏内にあっては、一番優良と目されるドイツ国債よりも高金利となることは、国ごとのリスクが大して意識されない今まででは、より国債消化が容易になる面があった。これでは、財政赤字が増加して金利負担が若干増えることはあっても、財政を健全化しなければ政府の資金調達が滞るとの危機感は強まらない。

 貿易赤字もしかりである。貿易赤字を出し続ければ普通の国ならば外貨繰りが苦しくなる。だから、貿易赤字をいつまでも出し続けて外国からモノを買い続けることはできない。しかし、ユーロ圏の場合、ドイツ等が頑張ることで全体として貿易赤字が大きくなく、ユーロ通貨が信認されていれば、一部の国が貿易赤字を増やしても外貨不足は生じない。

 要するに、ユーロ圏は、一部の参加国が財政赤字、経常赤字や物価上昇などを通じて国民が負担増少なく経済成長を謳歌しようとしたら、問題が生じる仕組みなのだ。全ての参加国が同じように責任分担することで初めて安定的に成り立つ仕組み、と言い換えることもできる。だから、他国の経済規律を良いことに、ある国の甘すぎる経済運営での経済利得(モラルハザード)を許したら、ユーロが持たず、それを支える各国の経済も持たなくなる。

政治優先のツケが出た

 PIIGSの中の多くの国は、ユーロ圏の中で一部ただ乗り的に得をしてきたということが言える。アイルランドだけは、いままでのツケが大幅な物価下落、すなわち所得減の形で調整されつつある。しかし、それ以外の国は、財政赤字だけではなく、貿易赤字、物価上昇率、いずれもが依然域内では大きいままである。

 これでは、ユーロ圏参加国の間で、互いの不公平さに不満が高まってしまう。何よりギリシャの財政赤字などの負担を、自らの負担増で肩代わりすることになりかねないドイツなどの人々が納得するはずがない。

 こう見てくると、今回のギリシャ問題は、大きな疑問符をユーロ通貨だけではなくEUのあり方にも突きつけていることが分かる。いままでEUは、自由、民主主義、人権尊重、といった理念を共有する欧州の国を加えることで、存在感を高めてきた。また、経済統合だけではなく、通貨も政治も統合するとの方向性を強く打ち出すことで求心力を強めてきた。だから、EUの中でもユーロ通貨を採用する国がユーロ圏として中核的な国となり、EU大統領まで選出するに至っているのだ。

 しかし、EU統合を加速させようとする余り、政治的に経済統合よりも通貨統合が優先されたことは否めない。実際、通貨統合が行われた背景には、経済統合をしてから通貨統合では単一通貨導入がいつになるか分からないので、まず通貨統合をしてしまえば経済統合もおのずと成就するとの考え方があった。確かに、政治的には、その方が早く成果が見えることは間違いないし、EU諸国の一体化も加速する。

EUの抱える課題は他人事ではない

 足元露呈したのは、欧州統合に当たって政治を経済に優先させたツケとも言える。それだけに、今後の展開次第では、このツケは重い課題をEUに与えることになる。ひとつは、もちろん参加各国の経済規律回復だ。

 全ユーロ圏参加国がバランスの取れた経済運営をできなければ、いくら「欧州はひとつ」の理念を説き、それを具現化するのが単一通貨ユーロの導入だと言ったところで人々はついてこなくなる。経済規律を保つために努力した国々(人々)ほど、後でただ乗りした国々(人々)のツケが一方的に回ってきかねないからである。しかも、参加国の経済規律を縛る有効な手立てに乏しい枠組みが災いし、下手をすると、そのツケは長期にかつ巨額に続きかねない。


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