2024年12月13日(金)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2010年3月8日

 一方、経済規律の回復をどうPIIGSの人々が受け入れるかも大きな課題だ。今後PIIGSでは、財政健全化等経済規律の回復が最優先となる。しかし、経済状況は依然厳しく、大幅な増税、歳出削減によって厳しい景気の二番底が到来することや、デフレが深刻化することが見込まれる。しかも、その痛みをEUが支援して緩和することは基本的には出来ない。その支援財源が、経済規律を維持している国の財源に頼るからだ。

 もっとも、EUの抱えるもっと大きな課題は、今後求心力をどう維持していくかという点にある。すでに、東欧諸国を加えたことで、EU拡大はほぼ最終段階にある。EU大統領も実現した。そこで、本来ならば、これからユーロ圏をEU全域に広げ、欧州統合をさらに深化させて、欧州を真にひとつに融合する総仕上げ段階に入るときに、EU経済統合の枠組みが持つ本質的な脆さが露呈したことになる。

 現在、ユーロ圏あるいはEUは大きな挑戦に直面している。もちろん、経済統合のみならず政治統合もEU各国に大きなメリットをもたらしており、EUの弱体化を望む国はない。また、いままでもEU各国は大きな試練をいくつも乗り越えてきたので、今回の課題もいずれ克服されることとなろう。

 そして、この課題克服がEU統合を一層磐石にする可能性すらある。

 しかし、それには時間がかかる。ちょうど、中国の台頭で米国一極覇権の構図が変化するかもしれない兆しがあるときに、統合や求心力のもたつきはEUにとって大きな打撃だ。EUは、世界の覇権争いに残れるのかどうか大きな試練を迎えている。

 

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