オトナの教養 週末の一冊

2016年10月29日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 たとえば、第2章「歩くことでパーキンソン病の症状をつっぱねた男」で示される運動と神経変性疾患の関係は、だれにでもわかりやすいだろう。

 パーキンソン病や脳卒中の患者は、神経回路を「使わない」ことで、歩けないことを「学習」する。脳は「使わなければ失われる」組織であるから、「不使用の学習」を通して病状を進行させてしまうというのだ。

 パーキンソン病と診断されたことで薬以外に有効な治療法はないと受動的になり、身体活動を減らすのは「最悪の選択」だといえるかもしれない、と著者はいう。

パーキンソン病ブートキャンプ

 ペッパーという患者の実例や動物実験などから、著者は、パーキンソン病と診断された患者が身近な介護者と一緒に参加する「パーキンソン病ブートキャンプ」を提案する。

 <そこでは専門家が、疾病に対処するには運動や身体活動が肝要であることを説明し、その基盤をなす神経可塑性の科学を教え、患者の歩行を分析し、意識的な歩行や動作の方法を教え、(中略)ケガや体力の消耗に配慮した歩行プログラムを提供する。診断が下されたらすぐに、神経栄養因子に働きかけるために、可能なうちに運動を始めることを第一の目標として定める。>

 「経験的に考えても、学習と運動の組み合わせは優良な効果をもたらすように思われる。中年に差し掛かって脳が衰え始めるにつれ、運動の重要性は減るのではなく増す。脳の衰退プロセスを打ち消す数少ない手段の一つが運動なのだ」と、著者は語る。

 私自身も含め、多くの人が一日中座りっぱなしの現代生活においては、この理解は非常に重要であろう。

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