2024年12月2日(月)

メイドインニッポン漫遊録 「ひととき」より

2016年11月4日

 「子供の頃に遊んでもらっていた職人さんも次々に辞めて、みんな下を向いて暗い顔をして働いていました。そんな工場を見て何か恩返しできないかと一大決心したのです」

 そう熱く語るのは土方邦裕社長だ。世界に誇れるメイドインジャパンを開発したのは、そんな熱血溢れる兄の邦裕さんと、クールで理論派の副社長、弟の智晴さんの土方兄弟である。

邦裕さん(右)と智晴さん。バーミキュラは新規事業をあれこれ考える中、研究熱心な智晴さんが書店で思いついた

土方兄弟のバーミキュラ開発物語

使いやすく、美しいデザイン。単なる料理人の道具ではなく、素材本来の味を引き出す世界一の鍋を目指したという。淡いカラーは有害なカドミウムを用いないため
(18センチ税抜22,000円~)

 平成13年、一大決心した邦裕さんは勤めていた総合商社を辞めて、愛知ドビーの3代目社長を継ぐべく入社。自らも工場の現場に入り、職人たちと一緒に鉄を溶かして鋳型に流し込み、鋳造の技術を習得していった。

 経営は少しずつ持ち直してきて、ほどなくして兄と同じ思いを抱いていた弟の智晴さんも、勤めていた大手自動車メーカーを辞めて入社、精密加工部門を任される。こうしてようやく工場は活気を取り戻しつつあった。

 しかし土方兄弟は、会社を存続させるためには何か新しい事業が必要だと強く感じていた。そこで鉄を溶かして形を作る鋳物と、鉄を精密に削る精密加工という、愛知ドビーが長年培った職人の技術を駆使して「町工場から世界最高の製品を造ろう!」と開発に挑んだのが、鋳物ホーロー鍋バーミキュラなのだ。

厚さ3ミリの鋳物を0.01ミリ以下の精度で削る

 とはいえ開発は困難を極めた。まず鋳物にホーロー加工するという技術が日本では実績がなく、まったくできなかった。釉薬を吹き付けた鋳物を焼くと鍋の表面に泡ができて不良品になってしまうのだ。1年がかりでどうにか技術の目処(めど)はたったが、続く難題が精密加工だ。どうしてもホーロー加工の段階で鋳物が熱で歪んでしまい、鍋と蓋に隙間ができてしまう。わずか1/100ミリ単位でも隙間があっては、無水調理ができる完璧な鋳物ホーロー鍋とは言えない。


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