2024年11月22日(金)

母子手帳が世界を変える

2016年11月9日

電子母子手帳への取り組み、そしてアフリカの真の自立発展を目指して

 最近では、ケニアにおける母子手帳の普及をさらに後押しするものとして、母子手帳を応用した電子カルテ携帯アプリの開発や、母子手帳と連動した電子送金などのシステム構築が急速に発展してきています。2011年には、モバイル保健産業の官民連携コンソーシアムの設立をお手伝いさせていただいたときに、保健省より、母子手帳を応用した電子カルテシステムのパイロット導入について打診があり、オックスフォード大学と共同で開発と実証検証を行いました。ケニア西部の西キスム県において、電子カルテを開発し、クロームブック(注2)とクラウドサーバーを利用して繋げるシステム構築を行ったところ、2日間のユーザー訓練と実施サポートによって、遠隔地においても電子カルテシステムの運用が可能であることが分かりました(注3)。

西キスム県で行われた母子手帳を応用した電子カルテの実証試験
カメルーンで初めて発行された母子手帳

 さらに、お母さんたちが携行する母子手帳と診療所の電子カルテが連動することによって、個々人が周産期サービスや予防接種を受けた記録などがタイムリーに追跡できるばかりか、行政官の指導監督業務の効果的な実施、診療の質の向上、携帯電話へのメッセージ機能の活用(妊婦検診や予防接種のリマインド)など、副次的な効果も大きいことがわかりました。このほかケニアでは、母子手帳データと保健情報システムの統合によるビッグデータ解析による受療行動予測や、ドローンを使ったワクチン配送システムなどの実証実験なども始まっており、急速な携帯電話やスマートフォンの普及とも相まって、今後の保健サービスにおける一層の発展が期待されます。

 2015年9月、カメルーンの首都ヤウンデで第9回母子手帳国際会議が行われました。前回のナイロビ会議で触発されたアフリカの国々からの進捗報告が行われ、愛情と情熱のこもった各国の発表に心打たれました。母子手帳というわかりやすいツールを通してお互いが切磋琢磨する姿には、母子保健全体を改善したいという医療専門家としての気概と、アフリカ人によるアフリカのための保健システムを構築しているのだという自信がみなぎっており、尊厳ある自立発展への一歩を踏み出していることが実感されました。2016年11月23-25日に東京で行われる第10回母子手帳国際会議においても、ケニアの代表から発表が行われることになっており、最近どのような進展があったのか楽しみにする毎日です。

(注1)Yoshito Kawakatsu, et al, Effectiveness of and factors related to possession of a mother and child health handbook: an analysis using propensity score matching, Health Education Research 30 (6): 935-946, 2015

(注2)米グーグル社のChrome OSを搭載したノート型パソコン。内蔵記憶装置の容量を小さくすることにより、日本円で2~3万円程度と、他社製品に比べて安価な価格を実現している。データとアプリケーションの管理・保存は、すべてインターネットを介して行われる(知恵蔵)。

(注3)John Haskew, Kaori Saito, et al, Implementation of a cloud-based electronic medical record for maternal and child health in rural Kenya, International Journal of Medical Information, 84(5):349-54., 2015

  
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