江藤哲郎のInnovation Finding Journey

2016年11月10日

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江藤哲郎 (えとう てつろう)

ベンチャーキャピタリスト

 鹿児島県出身。1984年慶應大商学部卒業。同年(株)アスキー入社。86年マイクロソフト(株)設立に参加し、マーケティング部長代理としてWindowsコンソシアム、マルチメディア国際会議等を立ち上げる。

 92年(株)電通入社後、デジタル・コンテンツの開発とビジネス化を推進。2002年から情報システム局でSAPアジア共通会計システムを中国・アジアの30拠点に導入他、国内外の全システム開発を担当。2013年から経営企画局専任局次長として、電通が約4,000億円で買収したイージスとのグローバルIT統合の責任者。

 2015年7月、ワシントン州カークランドにInnovation Finders Capitalを設立。AI、ビッグデータ等スタートアップを日本と繋げる。家族は妻と一男。
 

AIの「ビック4」

 アメリカでAIのエンジンを開発し提供しているIBM、グーグル、マイクロソフト、アマゾンは、今AIのビッグ4だ。各社研究開発費として1年間に数千億円を使いパブリッククラウドとしてAIのエンジンを提供しており、ビジネス化も進んでいる。その4社のうちシアトルが地場なのが、マイクロソフトとアマゾンだ。

 アマゾンもマイクロソフトも、囲い込んだスタートアップに最低25万ドル相当のクラウドを無料での貸し出し競争を行っている。両社やUWからスピンアウトしたスタートアップはこれらクラウドの機械学習モジュールを駆使して、新市場を創造するか若しくは既存市場の構造をディスラプトするようなイノベーションを次々と生み出している。こうしてシアトルはクラウドの首都からマシン・ラーニングの首都へと変貌中だ。

 マイクロソフトにはインキュベーション組織であるマイクロソフト・アクセレレータがある。プリンシパルのアヤ・ズックを中心に世界中で450社の育成を手掛け、32社のイグジット(株式上場かM&A売却)の実績があるグローバルなアクセレレータである。半年毎に平均10社のスタートアップを育成していて、今年の下期は10社とも全部マシン・ラーニングとデータ・サイエンスだ。

マイクロソフト・アクセレレータ プリンシパル アヤ・ズック シアトルをベースに世界6拠点をカバーしAIスタートアップを育成中。高校まで過ごした日本発のスタートアップにも注目 ©︎Naonori Kohira

 そのうちの1社DefinedCrowdを紹介しよう。創業者でCEOのダニエラ・ブラガ博士はポルトガル出身で、自然言語処理の権威であり、英語、スペイン語、フランス語に加え中国語までも操るまさにリングイストである。UWで教壇に立つ傍らマイクロソフトの音声認識システムCortanaの開発者としても著名だ。AIの開発で彼女自身が苦しんだのはAIのエンジンにデータを読み込ませる際、ほとんどの世の中のデータは整理されておらず、構造化もされていないこと。彼女はマイクロソフトのAI開発現場でデータ集めと整理に苦労した経験を踏まえ、そこに目を付けて起業した。同社は機械学習のためのデータを構造化するプラットフォームを開発し提供するスタートアップだ。

デファインド・クラウド 共同創業者兼CEO ダニエラ・ブラガ 世界が注目するインテリジェント・データの先駆者。同社には日本企業も出資 ©︎Naonori Kohira

 ダニエラはもう片方の問題であるデータ集めにも、画期的なソリューションを構築した。クラウドソーシングのサイトを立ち上げ、世界中の大学生に呼びかけ安価に音声などの元データを収集できる仕組みだ。クラウドソーサーはほとんどが留学生なので複数の言語に長け、専門はAI、データサイエンス、言語処理に取り組む若者達だ。既に36カ国で30の言語と100以上の方言をカバーし、元データのレベルも高く、構造化もされている。同社の技術をマイクロソフト、アマゾン、ニュアンス、グーグルが採用したのも頷ける。彼女はこの7月に続き11月も来日し日本企業とも提携を進めている。

 今世界中のビジネスシーンでAIのニーズが増えている。日本の基幹産業と言われる自動車産業の周辺では、テスラ、ウーバー、グーグルといった異業種のプレイヤーが車の利用をサービスとして提供する形ですぐそこに迫っている。彼ら新興勢力の何社かは車、電車、飛行機などすべての交通機関の利用を統合的にサービス提供する世界を目指しており、将来的には車を作って売るモデルが儲からなくなる可能性すらある。

 日本の製造業がそのようなサービスや製品を有利な立場で提供する側に留まりたいのであれば、これらAIを利活用した最前線の動きを読み解き、自らがどう変革したいのかを問い直す必要がある。その際スタートアップのAIイノベーションをどう取り込むかは大きな鍵となる。日本企業に対してオープンなシアトルのスタートアップに、今以上に注目が集まる日も近い。

  
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