今回は、電通がイージスを4000億円で買収した際の統合の舞台裏をバックオフィスの側面から書きたい。電通は2012年7月にロンドンに本拠を置くグローバル広告会社イージスを約4000億円で買収すると発表した。ただし、そこからの道程は厳しいものだった。結局は買収が完了し、ロンドンで統合会議をキックオフできたのは2013年4月で、9カ月かかっている。何に時間がかかったか? 中国だ。
独禁法の落とし穴は中国
大型買収には各国の独禁法当局の承認が必要だが、特に中国は落とし穴がある。独禁法の許認可が行政府から独立しておらず、商務省が握っている。判断の根拠もブラックボックスだ。08年に制定した独禁法に基づき、外資を狙い撃ちともとれる審査期間の長さに多くの日本企業が苦しんでいる。日中関係だけの問題ではなく、アメリカのコカ・コーラも汇源(フイユエン)という現地飲料メーカーの買収を断念した経緯もある。このあたりは、今後中国だけでなく各国で市場シェアに大きな影響が出るM&Aは事前に調査とグローバルに有力な弁護士事務所の選定など対策が必要だ。
電通はラッキーな面もあった。買収完了に時間がかかったため、その間に統合作業の体制づくりと準備ができたからである。バックオフィスの統合は、ITの他は財務、人事、CC(コーポレート・コミュニケーション)、法務により構成される。ITはITインフラなどの整備はもちろん財務や人事などへのサポートも期待される。重要なことは事が起きる前にIT部門のグローバル化を進めておくことだ。外国人の登用、海外の重要拠点と共同プロジェクトを実施し実態を把握しておく。これは必ず役に立つ。
電通の場合、ITだけでなくほぼすべての面においてイージスに任せる方策をとった。新たにロンドンをグローバル本社とし実際統合作業が始まると、彼らが前面に出て作業を行った。IT部門に限らず彼らは中途採用のプロフェッショナル集団だ。ゼネラリストとして育成された日本人が出て行っても、まとまる話もまとまらないのは残念ながら現実だ。買収先に任せる、というのは電通トップの大英断だったと思う。