2024年4月20日(土)

安保激変

2016年11月11日

 クリントン氏が圧倒的に強いはずのバージニア州北部ですら、こんな感じである。他の州ではおそらく、さらに「うんざり感」の空気が強く漂っていたことだろう。「アメリカ初の女性大統領」というだけでは克服できないこの「うんざり感」が、予備選でサンダース上院議員の大健闘につながり、本選では「トランプは絶対に嫌」な有権者のかなりの数を家にとどまらせ、「トランプも決して好きではないけど、クリントンはもう嫌だから」という有権者を投票所に向かわせる結果になってしまったのではないか。

「トランプ政権になっても、自分は絶対に政権入りしない」

 そうは言っても、誰も当選すると思っていなかったトランプ候補が次期大統領になってしまった今、アメリカはどうなってしまうのか。選挙終了直後からのトランプ氏の言動を見ていると、遅まきながら次期大統領という立場の重みを事態の重大さに気が付いたのかもしれない。当選後の勝利宣言の演説の内容は、クリントン候補に対する批判は一切なく、非常に穏当なものだった。また、当選から2日後の11月10日、トランプ次期大統領はメラニア夫人を伴ってワシントンDCを訪れ、オバマ大統領やライアン下院議長などと一通り面会したが、面会の冒頭でカメラに映った同氏の顔は、これまでにないほど神妙なものだった。ほぼ毎日のように問題発言や差別発言ともとれる言動を繰り返していたトランプ氏とは全く別人のようだ。

 一つの物差しになるのは、主要閣僚を支える政府の幹部職にどのような人たちが指名されるのかである。すでにメディアでは、国務長官候補にニュート・ギングリッチ元下院議長、国土安全保障長官候補にルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長など、政治家としての旬は10年以上前に終わったイメージが強い人たちの名前が取りざたされ、不安感を煽っているが、政権が代わるたびに人事が行われる「政治任用職」の数は4000とも5000ともいわれる。レーガン大統領は当選後、自分の周りを優秀なアドバイザーで固めることで自らの知識や経験の不足を補ったと言われるが、トランプ次期大統領に同じことができるかである。

 ここでの問題は、大統領選挙期間中に、候補者としてのトランプ氏の数々の問題発言や差別発言に反発して、「トランプ政権になっても、自分は絶対に政権入りしない」と公言した、過去の共和党政権で重要なポストについた経験を持つ人間が内政、外交、安保にまたがってかなりの数いることだ。自身のフェイスブックで「トランプ氏には投票しません」と発信したコンドリーザ・ライス元国務長官のほか、トランプ氏を支持しないだけではなく、実際にクリントン氏に投票したと公言した有力な関係者も、ブッシュ前大統領のスピーチライターを務めたデイビッド・フラム氏や日本でもよく知られているリチャード・アーミテージ元国務副長官など、多数いる。トランプ次期大統領が彼らのように、自分に対して過去、批判的なことを言った人物であっても、彼らの専門性を買って政府の要職に指名するだけの度量の広さを見せることができるかは、大統領としてのトランプ氏の物事へのアプローチを測るうえで一つの重要な物差しになるだろう。


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