2022年9月28日(水)

安保激変

2016年11月11日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 さらに、トランプ氏が、共和党が多数党であるとはいえ、選挙期間中、自分に批判的だった議員が多数いる議会とどのような関係を築いていくかも重要だ。特に、ポール・ライアン下院議長とミッチ・マコーネル共和党上院院内総務は、どちらも選挙期間中、トランプ氏が差別発言や問題発言をするたびに、かなりオープンにトランプ氏の批判をしてきた。ライアン下院議長に至っては、トランプ氏の女性蔑視発言が録音されたテープが公になってからは、トランプ氏と一緒に選挙集会に出ることさえ拒み、議会選挙候補者に対し「自分が当選することだけに集中してほしい」という発言までしており、トランプ氏は本来であれば顔も見たくないだろう。しかし、大統領として、選挙期間中に公約として掲げた政策イニシアチブを実現するためには、議会からの協力なしに大統領ができることは非常に限られる。特に、実現のために立法化が必要な場合は、大統領がむしろ議会に「お願い」する立場になることも少なくない。大統領としてのトランプ氏はここでも試されることになる。

約束した「変化」の実現は難しいのでは

 そして、トランプ次期大統領にとっての最大の課題は、自分を当選させてくれた支持層との関係である。国内では選挙期間中のトランプの発言とは裏腹に、かつて鉄鋼業や製造業、農業で栄えた町が、これまでと同じ産業で再活性化できる可能性は少ない。国内インフラ整備には政府予算の投入が必要になるが、政府への歳入を増やすためには、増税がやむを得ない場合もあるが、これは「減税」を掲げているトランプ氏の政策と真逆になる。また対外的には「限定的関与」を謳っていても、それがいかに「言うは易く、行うは難し」かは、オバマ政権の8年間をみるだけでわかる。トランプ氏は9月の外交政策に関するスピーチで、「自分が大統領になったら、米軍幹部に対して、IS壊滅のための作戦を30日以内に提出するように要請する」といったが、ISやかつてのアル・カーイダで壊滅させることができる計画を30日で作れるようであれば、オバマ大統領やブッシュ前大統領が既に作らせ、実行に移しているだろう。

 つまり、トランプ次期大統領が選挙期間を通じてアピールしてきた政策のかなりの部分は、そんなにすぐに変えることができないものばかりだ。しかし、トランプ氏はこれまで、支持者に対して「変化はすぐにやってくる」とアピールしている。支持者の期待は高いが、すぐにトランプ氏が約束した「変化」が感じられなければ、2年後の中間選挙で、今回の大統領選挙で彼に投票した支持者も、それ以外の有権者も、厳しい判断を下すだろう。

 今回の大統領選挙は初めから終わりまで「想定外」だった。今はアメリカも世界も、トランプ次期大統領が就任後、「想定外」に安定した政権運営の手腕を発揮する可能性にかけるしかないのかもしれない。

  
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