2024年4月19日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2016年11月18日

 今回、香港の司法界では、裁判所には政治に関与することができず、議員資格は無効とはされないとの観測も根強く、事前の見方は割れていた。また、元裁判官や弁護士ら司法関係者が強い懸念を示して抗議の大規模な街頭デモも行っていた。だが、結果は香港の司法が中国の政治的意向によって左右されたと受けとめられかねない判断が示され、その信頼性に大きな痛手となった。

 2人の宣誓方法については、あまりにも過激で幼稚な方法だったという見方は親中派以外にも少なくなく、そこまで強い同情を集めているとも言えない。2人は最高裁にあたる終審法院に上訴する見通しだが、そこで敗訴しても、即、雨傘運動のような大規模な抗議デモが起きるとは考えにくい。

 しかし、宣誓方法について、ほかの本土派議員や民主派議員でも規定通りの宣誓が行なわれていなかったとして、裁判所による議員資格の無効審査を求める訴えが総勢10人以上に対して親中派の団体から提起されている。今回の司法判断がそのまま通用するのであれば、ほかの議員も大量の失格となってしまい、香港政治自体に大きな混乱を及ぼすことになりかねない。

口実を与える結果に

 今回の審査結果について、高等法院は「全人代の判断がなくても、結果は同じだった」と述べているが、もともと9月の選挙でも、立候補時に「香港は中国の一部である」ことを認めない候補者に対し、立候補の段階から排除する措置が取られた。これは、本土派=独立勢力を議会には入れないという習近平政権の固い意向を反映したものとされた。しかし、その選挙を勝ち抜いて6人の本土派が当選したことで、今度は司法の力を借りて、本土派排除に動いたとの見方が合理的に思える。その意味では「青年新政」の2人が宣誓式で中国による排除について格好の理由を与えてしまったのかもしれない。

 しかしながら、香港の若者の間では「香港と中国は違う」「我々は中国人ではなく、香港人である」とするような「本土思想」が雨傘運動以降、外部からは想像もつかない勢いで広がっている。そのなかで、本土思想や香港独立思想を攻撃すればするほど、彼らの勢力はますます中国に反発を強め、その反中姿勢を強固にしていってしまうという悪循環にも陥りかねない。


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