シリアへの介入を強めるロシア
こうしたなかで、ロシアはシリア介入戦略にも微妙な強弱をつけている。米国大統領選挙終盤、ロシアは、内戦の焦点となっているシリア北部のアレッポ市への攻撃をアサド政権軍とともに一時的に手控えた。「市民の自由通行と傷病人の避難、戦闘員の撤退のため」というのがその理由であるが(10月18日付ロシア国防省発表)、多数の民間人被害を出しているアレッポ空爆を続ければ米国世論が強硬化し、ロシアのシリア介入に批判的なクリントン候補への追い風となることを警戒したという側面はあろう。アレッポ空爆をめぐってはこれまでロシアとの仲介役を務めていた独仏も人道的立場から姿勢を硬化させ、新たな制裁まで示唆しつつあったため、欧州向けのポーズという側面もあったと思われる。
一方、トランプ候補の勝利が確実となった後の11月11日になると、ロシアは約3週間ぶりにアレッポへの大規模攻撃を再開した。昨年11月からほぼ1年ぶりとなる爆撃機からの巡航ミサイル攻撃に加え、東地中海に展開させた空母アドミラル・クズネツォフもロシアの歴史上始めて、艦載機による空爆を実施。また、同じく東地中海からは黒海艦隊の新鋭フリゲートによる巡航ミサイル攻撃を行ったほか、地上には射程が300kmに及ぶ最新鋭のバスチョン超音速地対艦ミサイルシステムを展開させ、これを対地モードで発射した。
また、11月21日はフメイミム基地に新たな滑走路や地対空ミサイル陣地などを建設する近代化計画を2年半から3年掛けて実施するとの計画をロシア国防省が発表した。ロシアはシリア政府との間でロシア空軍の恒久的な駐留に関する協定を締結したほか、10月10日にはロシア海軍の拠点があるタルトゥース港を拡張して恒久化する計画をパンコフ国防次官が明らかにしている。すでにシリアにはタルトゥース港の拡張工事に使用されると見られるクレーン船が出発しており、シリアにおけるロシアの軍事プレゼンス恒久化を早々に実施する構えである。