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2016年11月24日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

防空体制強化で米国をけん制

 ロシアはシリア上空における防空体制も強化している。10月初頭にはタルトゥース港に長射程のS-300防空システムが配備されたほか(すでにフメイミム基地にはより新しいS-400ミサイルが配備されていた)、空爆再開後には、これまでの主力基地であった北西部のフメイミム基地ではなく北部中央のクウェイリス基地にMiG-31BM迎撃戦闘機を配備したと見られている。

 ロシアが懸念していたのは、クリントン政権が成立した場合、米国がシリア北部に飛行禁止空域を設定してロシア軍やアサド政権軍による空爆を封じられる可能性だった。米国内では、シリア問題に対する「プランB」として飛行禁止空域設定を求める声が高まっており、クリントン候補もこのオプションを真剣に検討していたと見られる。そうなれば米露直接対決の危険が生じる、というのがロシア側の言い分であったが、実際には米国がそこまでの決意を示してきた場合にはシリアへの介入を後退させざるを得ない、という懸念のほうが大きかったのではないか。ISISも反体制派も航空戦力を持たない中で防空体制の強化に走ってきたのは、トランプ政権が「プランB」に走ることがないようけん制する狙いがあったと思われる。

 この意味で鍵を握るのがトルコの動向である。シリア北部への飛行禁止空域設定にせよ、安全地帯の設置にせよ、もともとはトルコが言い出した話であり、今年9月のG20サミットでもエルドアン大統領はこの構想を改めて提案している。

 トルコとロシアの関係は昨年11月に発生したロシア空軍機撃墜事件によって一時期最悪の状態に陥っていたが、今年6月にエルドアン大統領が突如としてロシアに対する謝罪の意向を表明し、8月にはエルドアン大統領が訪露して関係正常化を宣言した。さらにロシアはトルコへの天然ガスパイプライン敷設計画を再開させ、最新鋭のS-400防空システムの供与まで計画している。一方、人権問題でEUから非難を浴びているエルドアン大統領は今月20日、トルコが中露主導の上海協力機構に加盟する可能性を示唆するなど、ロシアに接近するそぶりを見せるようになった。

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