自分で選んだ道に後悔は一切ない
なぜ大企業を辞めてルワンダで起業をしたの!? しかもシングル子連れで。
この質問をいただくことが一番多い。理由は主に二つで、自分の夢と、子育てのメリットだという。夢というほど具体的ではなかったが、海外で英語を話しながら暮らしたいという気持ちが英語の勉強を始めた中学生の頃からあった。また、息子を日本で育てながら思うところもいろいろあった。
一言でいえば、日本は窮屈だった。母親はこうあるべき、預けられているこどもは「かわいそう」、日本での子育ては「これが普通」といったような。また、どんどんグローバル化していく世界を感じながら、息子をどこで何人(なにじん)として育てるのか? 彼のライバルはどこの誰になるんだろう? などと漠然と感じていて、日本の外でも子育てしてみようと思っていた。
実際、子育ての環境は、医療面を除けば、圧倒的に良い。子どもの面倒を見てくれる大人が自分以外に何人もいて、学校などのコミュニケーションは全部英語。現地の人だけではなく、いろんな国、いろんなバックグランドのお友達ができる。日本語教育については試行錯誤が必要だが、一時帰国を除いて、日本での育児生活に戻る気はないようだ。
自分では起業! と言われてもピンと来ないのが正直な気持ちだった。ビジネスがしたくて来たというよりは、前提が何もかも違うところで再スタートしたかった、という方が近かった。よく「子どもがいるのによく決めたね」「シングルマザーなのにすごいね」と言われることがあるが、千沙さんにとっては、「だからこそ」日本を出ることにした、という感覚である。
ちなみに、前職のリクルートグループは、ワーキングマザーにとって、シングルマザーにとって、日本では突出して制度の整った良い会社だったことは間違いなかった。ただ、いくら個々の会社が制度面で整っても、日本に依然としてある女性はこうあるべき、母親はこうあるべき、家庭はこうあるべき、子育てはこうあるべき、という世の中一般の「レッテル」が世の中、そして家庭にある限り、多くの女性にとって窮屈さは変わらないと思った。
千紗さんはよくも悪くも変にマジメで、アフリカで起業というイメージからは実は対局だが、「常識」に縛られるところがあったそうだ。なので、ここから出ないと変われないと思って、出た。実際出てみると、実は自分を一番縛っていたのは自分自身だったことに気づいたそうだ。「ちゃんと仕事もしないと、でも『父親』役も『母親』役もちゃんとしないと、でも仕事も育児もちゃんとできていない、と自分を責め続ける日々からリセットされて、気がついた。
実際、若い世代はどんどん変わってきている。変えようというムーブメントが、周りでもたくさん起きている。確実に良い方向にいっている。彼女は確信しているのだ。
千紗さんにとって一番大ことなことは、「自分で選んだ」ということだと思っている。どんな困難にぶつかっても、「自分で選んだ道だから」と立ち返れることが何よりも自分を支えてくれるはずだからだ。シングルマザーも、自分で決めたので、確かに並ではなくツライこともあるが、自分で選んだ道に後悔は一切ない。
会社員を辞め、自営の道は険しいが、自分で選んだ道なので、やるしかないということだ。現状に違和感、不満があるなら、その生活を惰性で続けるのではなく、自分はそれを「選ぶ」のか? を常に問い、道を切り開いていきたいと思っている。千紗さんはそんな人なのだ。